あれからしばらく経ち、椿は最後の自撮りをアップし、フォロワーに別れを告げた。
「フォロワーの皆さん。私は本当の自分を見つけるために、当分の間活動を休止します。今まで応援してくださってありがとうございました!また皆さんに会える日を楽しみにしています。つばっきー」
「え?マジで?つばっきーに会えなくなるなんて寂しいよ」
「つばっきー、ありがとう。今度会える日はさらに磨きがかかってますように!」
「いつか会えるとしても目力は落とさないようにしてね!」
「会えなくなるのは寂しいけど、時々思い出しますね~」
「キラキラおめめ、チョーかわいかったのに会えなくなるなんて寂しいです。また会える日を楽しみにしています」
「再開した暁には、ぜひとも素顔で!」
彼女のもとへお別れのコメントが続々と届いた。
「短い間だったけど、みんなありがとう!寂しいけど、みんなのこと忘れないからね!でも、アカウントは残しておきますから、いつでも見てくださいね!See you!つばっきー」と返事を残し、”つばっきー"としてのSNS活動を一旦封印した。
(私って、なんてくだらないことを思いついたのだろう…ますくすれば可愛く見られる。確かに自分は目元以外は絶望的だから、それらを隠せるにはありがたいツールだし助かっていると思う。だからSNSでたくさん”いいね”もらったり、フォロワーもできた。自分の”デカ目”は強力な武器になってたし、十分アピールできた。だけどフォロワー増えるたび心配するコメントも増えてきたから、すごくショックだったわ。よく考えたら、私みたいにデカすぎてもかえって気味悪がられて”カワイイ”の度を越えていたのかも…大きければカワイイって勘違いしてたのだろうか?それに横顔は目ん玉がすごく飛び出てるのよね…自分は気に入ってるから何ともないけど、病気とか怖いとか人間じゃないとか思われて辛かったわ。特に全開の時の黒目周りの余白や今にも落ちそうな目ん玉を見られたら、そう思われても仕方ないよね。トラウマになったりしないだろうか…?)
椿は唯一の”武器”であるデカ目がコンプレックスにならないか気にするようになった。
”outstsgram"始めたばかりは”可愛い””羨ましい””目力強すぎ”とコメントをもらい、嬉しい悲鳴を上げていたが、フォロワーが増えると、”病気じゃないの?”と心配するコメントも増えてきた。それでも彼女は必死にアピールするため、クリクリ動かしたり寄り目をするなど、眼だけで様々な表情を作りフォロワーの心を掴んできた。
だが、いつかはやめようと決めていたが、どうせやめるなら悔いの残らないものにしたい。それにしてもやめるきっかけが案外さっぱりしたものだ。それでも椿は、
(でも楽しかった!フォロワーのおかげで自分を最大限にアピールできたし満足している)
しかし、満足してるものの、どこか寂しげで虚ろであった。”ますく美人”に対する違和感、それ自体褒め言葉ではなく悪口に思えるようになった。その言葉が彼女を追い詰めていた。自分の顔を鏡で見て落ち込む日々…鏡を見つめながら問いかけた。
(”デカ目”自慢もいいけど、それ以外のパーツもよければな~どうしてこんな顔に産まれたのだろう?やっぱり親を恨むのか?だから自分の素顔を見られたくない。恥ずかしい…ずっとますく生活でいい…)
一生ますく生活になるかと思うと、何ら抵抗もなく楽であろう。だが、ますくでコンプレックスを隠したところで、眼だけギョロつかせて妖怪やゾンビが歩いてると気味悪がられ怖がられるのがもっともだ。
(ここまで気味悪がられと、眼も隠したくなるよ…怖い、キモいとしか思われていない。”デカ目”もコンプレックスになりそう…私、もう人間じゃないんだ…)
自慢のデカ目に、涙があふれていた。やがて大粒の涙がこぼれだした。
(もうこんな”遊び”はやめてよかった。ありのままの自分を表現しよう。慎ちゃんの言うとおり自分を磨いていこう)
椿は涙でぐしょぐしょになった顔をタオルで拭くと、眼は真っ赤になっていた。そんな落ち込んでいる彼女の元にENILが入った。
「椿、ご無沙汰。元気にしてる~?今度会いたいのだけど、いつがいい?」
(続く)