それも気に留めず、フォロワーはさらに増えていたが、椿の表情からはかげりが見えてきた。自慢の目力も輝きを失いかけていた。それでも自撮りをアップしていった。
「つばっきーおはよう。あれ?元気ないね。いつものつばっきーじゃないわ」
「今にも目ん玉落っこちるくらいだから、一度病院で診てもらってほうが…」
「なんかボーッとした感じ。しかも”死んだ魚の目”になってるし」
(もー、病気でも何でもないって!心配してくれるのはありがたいけど、かえって迷惑なのよね)
さらに、ショッキングなコメントも目立ってきた。
「出目金じゃねーか。キモい!」
「お前、本当に人間なのか?」
「目ん玉デカけりゃいいってもんじゃねーよ。バケモノじゃねーか」
「いくら目がパッチリだろうが、マスク取ったらブス確定だろうよ」
「”目だけ美人”ってたいていハズレだもんな。何調子こいてるのか」
「本当の美人は鼻から下なのに、どうせ取ったところで、あ~あ残念」
「マジでキメーわ。目ん玉にもマスクしろよ」
「何イキってんだよ。デカすぎてかわいくねーよ」
「これこそ勘違いブス。自分の顔、鏡見たことないのかよ」
「目玉妖怪、こわっ!」
「言っとくけど、お前テロリストか?」
「目ん玉出すぎて病人か何か?」
彼女に追い打ちをかけるように罵倒するコメントが噴出し、
(そ…そんな…ひどすぎる…私、一生懸命アピールして、ずっとアップして、みんなから認められてきたのに、整形だの病気だの心配してくれるのはまだしも、よりによってバケモノとかブスって…)
コメントを読んでいるうちに、悔しくて涙をためていた。リプ返しする気力も失っていた。
(だから自分の”いいところ”をさらにアピールしたかったためにますくしたのに…悔しい…)
たとえチャームポイントや自慢とはいえ、さすがに無理があったようだ。自分のコメントを読んでて、ためていた涙が流れ出した。そして、ダメ押ししたかのようなコメントを見つけた。
「あのデカすぎる目ん玉見たら、”八神椿”とわかったよ。所詮ブスに変わりねーな。マスクしてまで可愛く見られたいのかよ。つけあがるのも大概にしろよな。ドン引きだよ、このバケモノが!」
(ま…まさか…?”あいつ”からコメントが?なぜ?せっかく見返したかったのに、悔しい!)
”あいつ”とは椿が子供の頃にいじめていた石阪慎一だった。慎一は、クラスメイト数人で彼女を妖怪呼ばわりしてからかったりいじめていた。
「慎ちゃん、あれから何年経っても変わってないなんてガッカリだわ。子供がそのまま大人になったのね。あんたを見返すつもりで始めたのに!ところで私がoutstagramやってるのわかったの?」と、椿はコメントを返した。
「フォロワーつながりさ。俺もやってるからね。フォロワーの一人がお前をフォローしてるんだ。”すげーデカい目をした女、しかもマスクしてるからひと際目立ってるし、まさに俺のタイプだよ”だって」
「目元見てタイプだなんて嬉しいよ。そんなことちっとも期待してなかったのに」
「ぶっちゃけ言うけどさ、俺は目元なんてどうでもいいと思ってる。バランスを知らないのか?目だけよく見せようと派手なメイクでごまかしたり、マスクで強調するのはやめろよな。いくらデカ目自慢しようと勝手だろうが、かえって気味悪がられるだけだぜ」
「あんたにはわからないわ。どうせマスクとったらブスっていうくせに」
「ゴメン、言い過ぎたよ。お前は目だけが取り柄なのか?それ以外何の取り柄もないのか?」
「そういえば、他にないかも…だから”デカ目”をよく見せるよう、マスクしてカワイイを強調したかった。みんな”カワイイ”って言ってくれて、すごく嬉しかった。おかげで私の人生は明るく変われたの」
「そうだな。”めだまおばけ”は健在だな(笑)ま、せいぜい自身のない部分も磨いてくれ。”自分磨き”に精進しような。整形まで考えなくていいからさ」
「うん。ちょっぴり勇気づけられちゃった。”自分磨き”ね。頑張るよ!」
椿は罵倒コメント攻撃に限界を感じ、またかつてのいじめっ子だった慎一の励ましのコメントに勇気づけられたこともあり、SNS活動をやめることを考えていた。
(続く)