次の日、椿はルンルン気分(死語?)で職場へ。
「おはようございまーす!」彼女はハイテンションで挨拶をした。
「おはよう。いつもの八神さんじゃないね。もしかして彼氏…?」
「違うよ。私”outstagram”始めたんよ」
「え?マジで?ますく着けたまま?」
「もちろんよ。目元だけの自撮りだけどね。私の自慢をアピールしたくて」
「見てみたいな~」「見せてよ~」
「じゃあ見せてあげる」と、椿は自分のoutstagramにアップした自撮りを同僚や後輩たちに見せた。次々に眼だけの自撮りを見て皆、驚いていた。
「すごーい!あまりデカすぎて圧倒されちゃう。まさか、整形や加工もしてないよね?」
「そんなわけないじゃん。天然だもん」
「天然なのに、めっちゃ大きいのは見たことない!私の三倍はありそう」
「あはは…大げさなんだから~」
(目ん玉ギョロつかせて気持ち悪いな。いくら自慢でもあそこまで大きくなくてもいいわ。しかも黒目周りの”余白”のすごいこと…もはや人間じゃないよ。やっぱり病気かと心配しちゃう)
彼女たちは椿の自撮りを見て心配のあまり声を詰まらせた。
「ど…どうしたの?みんな固まっちゃって…気に入らなかったのかな?」
「ううん、何でもないよ。可愛いね、ね?お人形さんみたいにくりっくりしてて…」と、声を震わせながら話した。
すると椿は、彼女たちにまるで喧嘩を売っているかのように睨み、
「それって嫌味じゃない?それでも何百人もフォロワーができたのよ。”めっちゃカワイイ””目力強くて羨ましい”ってコメントしてくれるの、すごく嬉しいよ!やってよかったわ!」と、強い口調で言った。
「だからあなたたちもフォローしてくれない?」
「家に帰ってゆっくり見るね。何て名前だっけ?」
「つばっきー、だよ」
「覚えやすいね」
(どうせ長続きしないし、飽きるだろうね。遠慮するわ…)彼女たちの”本音”がポロリと出た。
椿は自分のアパートに戻り夕食を取った後、再びますくを着け自撮りを始めた。
(うーん、イマイチかな?やばっ!血走っている!こんなの恥ずかしくてアップできないや)彼女の眼は血走っていた。それでも”別に病気じゃないから”と気にせず自撮りを続けアップしていった。
(だいぶ落ち着いたかな?目ん玉から血の気引いたみたい)
だが、横から見たら目玉が飛び出てるし、気持ち悪がられると思い、横顔は撮らないことにした。
コメントはどんどん届いているが、心配するコメントも増えてきた。
「気持ち悪いくらいデカいのですけど、何かの病気なんですか?」
「病気じゃないよ。生まれつきだよ。私はいたって元気です!」椿はコメントを返した。
「よかった~心配だったんよ」
さらに心配するコメントが次々に寄せられ、
「デカすぎて不自然。加工してないよね?」
「横顔も見たけど、目ん玉の突出がハンパないです。大丈夫ですか?」
「時々白目が血走ってるけど、本当に心配です」
(気持ち悪いなんて…病気でもないのに…)彼女は正直複雑な気持ちになった。
(あれだけデカければ怖がれたり逃げられたりするのもわかる気がする…やっぱり無理があるのかな?大きければいいってもんじゃないのね…もしコンプレックスになったらどうしよう…?)
SNSで承認欲求もらって有頂天になっているうちはいいとしても、”素顔”を見られた時の絶望感は、さすがに引くだろう。”ありのままの自分”と生きていくのも悪くはないが、それを受け入れられる状態でない。SNSを始めたきっかけも自分のいいところをアピールしたかったから。だが、いずれは素顔がバレるだろう。”辞め時は”必ず来るかと。
(続く)