八神椿(やがみつばき)は職場から自転車で15分くらいのところにある年期の入ったオンボロアパートで一人暮らしをしている、小さな会社で働くごく普通のOLだ。

 彼女には、両親・4つ上の姉がいるが、姉はすでに家庭を持ち、小学生と中学生の二人の子供がいる。

 介護士として、介護施設でフルタイムとして働いている。

 実家にいる両親は、営業マンだった父は定年退職し、母は近所の飲食店でパート勤めをしながら細々と暮らしている。

 両親は、いつ嫁いでもおかしくない年頃なのに彼氏どころか、自由奔放な日々を過ごしている椿のことが心配でならない。

 姉が嫁いだため、いずれは椿に面倒を見てもらおうと考えているのだろう。

 だが、彼女は親の面倒を見ることなど一寸も考えてないそうだ。

(姉さんは実家近くに嫁いでいるのに、しかも介護士なんだから面倒見てもらってもいいじゃない。旦那さんも跡取りじゃないし)

 姉はいたって他人事である。

 また椿には、もう一つの悩みがある。

 容姿にコンプレックスを持ち、小柄でポッチャリ、髪はくせっ毛のショート、低い団子鼻、口角下がった分厚い唇、下膨れの輪郭、二重顎…ポッチャリ体形や二重顎はダイエットで、くせ毛は縮毛矯正、口角下がりはマッサージでどうにかなるものの、顔の下半分は整形の他に考えられない。

 唯一の自慢は顔の半分はあるだろう”デカ目”、くっきり二重でまつ毛も長くフサフサで、まるで少女漫画のキャラクター思わせる。

 彼女の場合、ただ大きいだけではない。横から見ると、目玉が突き出ていて、おまけに全開になると黒目周りの”余白”もでき、もはや人間とは思えないくらいだ。それでも整形や病気でもなく生まれつきだから気に入っているのだ。

 子供時代についたあだ名は”めだまおばけ”。同級生、特に男子からは「めだまおばけ来たぞ~!逃げろ!」「リアル妖怪だ」「バケモノ!近づかないで!」と彼女が近づくたびにまるでバイキンのごとく逃げたり避けたりしていた。それが辛くて学校を休みがちだった。

 (そりゃ、私だって彼氏の一人や二人は欲しいよ。でも目元以外コンプレックスの塊だし、目元だけで惚れてくれる人なんていないだろうね…)

 椿は自分の顔を鏡で見て、

 (あ~あ、私の顔っていったい誰に似たのだろう…父さんも母さんも姉さんもまともなのに私って、もしかしたら…)

 彼女はあたかも他人の子であるかのように自分に問いかけた。

 彼氏ができないのも自分の容姿のせいだと責めるが、

 (こんな顔に産んでくれた親を恨んでも仕方ない。五体満足で生まれたのだから顔ごときで贅沢言うな!って思ってるでしょうね。あ、そうだ!私には”武器”があるんだ!)と、唯一のチャームポイントポイントであるデカ目をカッと開き、過去にいじめを受けてきたのを水に流そうと決めたのであった。

 (これを生かさないわけにはいかない!今に見ていろ、私をいじめた人たち!)

 

 

 

 (続く)