(あれ…?脚ばっか映ってる…何よこれ…これはないわ…)
紀子はショックのあまり、開いた口がふさがらなくなり、怒りが込み上げてきた
約五分のコーナーだったが、結局顔は一度も映ることなく終わった
次の日、怒りが抑えきれない彼女はACBへクレームをつけにいくため、事務所にいる摂子を呼び、ACBへ連れていくように頼んだ

「摂子、悪いけど局まで連れてってよ!」

「え?何事ですか?」

「他人事じゃないのよ、こっちは!早く来てよ!」
いきなり呼び出された摂子は、紀子を乗せ車を飛ばしてACBに着いたとたん、スタジオに行き、

「"AAPA"のプロデューサー呼んでください!」

「あ、都ふたばさんですか?私ですけど、このたびはデビューおめでとうございました。昨夜、TV観られたのですね。ところで、血相変えちゃって、どうかなさいましたか?」

「どうしたもこうしたもないですよ!番組観ましたけど、なによ、脚ばっか映って大事なところカットされてるじゃない!」
紀子は怒りで声を震わせていた

「あ、それは番組の編集の方に言ってくだされば…」

側で編集に携わっている彼に向かって暴言を吐き、
「ちょっと!何なのよ!映ってたの、脚ばっかじゃない!あんた変態かよ、気持ち悪い!」
(気持ち悪いのはふたばさんだろ…)
と、彼は心の中でつぶやきながら、

「いや~申し訳ございません。編集していたら、変顔ばかりだったから、カットしました。さすがにあそこまで観たら視聴者から苦情が出ると思いまして…それに、放送時間内に合わせるため致しかねなかったことですから…」
と、言い訳をした

「ところで、ふたばさん美脚ですね。モデルさんでもやっていけるんじゃないですか?」

「脚なんかほめてもらっても、全然嬉しくない!私はパーツモデルなんかじゃないのよ!私が出たら、視聴率が下がると思ってるんですか!」

紀子はとうとう堪忍袋の緒が切れた
彼女は彼の胸ぐらを掴み、殴りかかろうとした
「バカか、お前?ふざけるなよ!侮辱するのも大概にしろや!なめてんのか、こらぁ!」
と、口をあらげ、

「す…すみません…」
そして、周りにある椅子やカメラなどの機材を蹴飛ばしたり、気が狂ったように暴れだした

「ふたばさん、落ち着いてください!」
摂子も止めに入ったが、紀子の怒りを抑えることができず、ますます手がつけられなくなっていた

「これだけ侮辱されて悔しい!期待していた私がバカだったわ!こんな番組、今後オファーが来ても二度と出るもんか!TV局ごと潰れてしまえ!」

怒りが爆発した紀子は暴言を吐きながら、フンッと言わんばかりにスタジオのドアをバーン!と思い切り閉めた

(しかし、新人のくせに何様なのかねえ…所詮、更年期近いババアだしな…)
スタッフたちはあきれかえっていた

「ふたばさんいくらなんでも…」

「いいのよ。これくらいやらないと気が済まなかったから」

「カメラとか弁償しなきゃならないのに…」

(ちょっとやりすぎたかな。ま、いいか。あまりにムカついてたからスッキリしちゃった。でも、スケジュールまだまだある…もしそれで仕事がなくなったらどうしよう…)
紀子は後悔の念に駆られていた
摂子は彼女を自分のアパートまで送り、事務所に戻った

その後、事務所に連絡が入り、
「都ふたばの件ですが、当局番組およびイベントの出演をすべてキャンセルさせていただくことになりました」

電話の主は、ACBーTVからだった
雪美は、
「え、どうしてですか?」

「実は、先日番組OA後、彼女がやってきまして、クレームをつけに来たのです。ブチギレして大暴れして、スタッフの一人に暴言を吐いてしまいましてね。おまけにカメラも壊してしまって…」

「私もその番組観ました。脚しか映ってなかったって、どういうことですか?」

「その件につきましては、本人が一番知っていると思います」

(でも、それだけのことでキャンセルだなんて…せっかくせっちゃんがスケジュール組んでくれたのに…)

彼女は紀子の携帯に電話をかけた
「もしもし、ふたばさん?TV観ましたよ!でもガッカリしちゃった。脚しか映ってなかっただなんて、それは酷いですよね?」

「でしょ。だから局行って文句言ってやったよ。ついカッとしちゃって…」

「それが…お仕事全件キャンセルだって…」

「えーっ?!」
紀子はいきなりの出来事に驚いた

「なんですべてキャンセルの?ACBだけじゃなく、他のイベントとかそっちは関係ないでしょうに」

「たぶん、局が関係者に伝えたかと思います。それから、壊したカメラなどは弁償させてもらいます。よろしいですか?」

(そ、そんなー!おのれ~仕返ししやがって~たかがあれだけのことでキャンセルするとは、本当になめてやがる。ざけんなよ~!)
彼女の怒りがふつふつと沸き上がった

「自業自得じゃないですか。我が事務所の期待を裏切っちゃって、先生も呆れて泣きますよ」

「仕事なくなったら、私これからどうすればいいの?ギャラなんてあてにならないし、もう人生終りよ!この事務所も辞めてやる!あばよ!」
(ふたばさん、更年期なの?私はあんな風にはなりなたくないわ。あ~あガッカリ)

あれほどの傍若無人っぷりにスタッフや局も呆れてかえっていたのだろう
それだけに、芸能界は甘くないのだ

(秋保や旦那の思っていた通りだわ…あーやっぱギャラが…大福に金返さないと…それ以上に弁償はこたえるわ)
そのことを思い知らされた紀子は、あまりにもあっけない理由で事務所を辞めた



(続く)