翌日、この日はオフだった
(そういえば、今日スケジュール入ってなかったな…)

「金使えんし、あー退屈。TVつけよ。あ、まだだった、何チャンネルだっけ?」

紀子はTVのチャンネルをひねった
彼女のTVは年代物で、画面が小さくチャンネルを回すもので、母の実家から持ち出したものだ

(いよいよOAか…待ってました!ついに全国的に私の名前が広がる瞬間を!)

「いや、待てよ…まだ時間来てないし…ちょっと寝るとするか。たしか、20時からか?目覚ましセットしとこっと」
紀子は退屈まぎれに、一眠りをした
時計を番組が始まる10分前にセットをし、時間が来るのを待っていた

そして、時計のアラームが鳴り、軽く食事を済ました後、ワクワクしながらTVをつけた

(よし、ここだな。おーっ、始まった!)
まもなく彼女が出演する"AAPA"の放送が始まろうとしていた

「レディースエーンドジェントルメーン!"AAPA"今晩も一緒に楽しみましょう!レッツハブファンツナイト~!この番組は四井商事の提供でお送りします!」
(よりによって四井商事がスポンサーかよ。旦那のライバル会社じゃねーか)

「まず最初のコーナー、"パラダイス21"!」
(やっぱ画面の映り悪い…波打ってるし、ノイズも酷いし…無理してでも摂子ん家で観させてもらえばよかった…)

「続きまして"ひろし製作所"!今回はクリンプとトラントンの支持率に動きがあるか、注目の一戦!熾烈な戦いが繰り広げられるのは間違いない!」
(これ面白い)

「そして、おまちかね!"新人さんいらっしゃーい!"どんな新人さんが出るのか、今週はBICKS希望の星、"都ふたば"さんです!デビュー曲"初恋記念日"彼女の歌唱力と振り付けに注目です!では歌ってもらいましょう!」

(おーっ、ついにきたーっ!)
紀子はドキドキしながら自分が映っている画面に釘付けになった

♪窓越しに見つめる 今日のあなた
 暖かい日差し さわやかな風
 後ろ姿にトキメキが止まらない
 ゆらゆら揺れる かげろう踏みしめ
 振り向かないで走ってく
 ひろがれ ひろがれ 恋心
 ふくらめ ふくらめ 胸の内
 *素敵な一日迎えそう
  だって今日は 初恋記念日

 遠くを見つめる あなたの瞳
 澄んだ青空 流れゆく雲
 こぼれる笑顔ドキドキが止まらない
 ふわふわ浮かぶ 綿雲目指して
 大空向かってジャンプする
 とどけよ とどけよ 恋心
 つたえて つたえて 胸の内
 *繰り返し
 だって だって今日は初恋記念日~♪

その時、秋保の家では、
(おっ、忘れてた忘れてた。"AAPA"だったっけ?お袋が出てるのは。"都ふたば"っていってたな)
彼はあわててTVをつけた

「おい、見てくれよ!」
同棲中の彼女を呼び、

「えーっ?!」
二人は驚きで目が点になっていた 

「な…なんなんだよ…脚しか映ってないじゃん!肝心なところがなんで映ってないんだ!」

「でも、歌は上手いよ。それに脚は綺麗だし、モデルさんみたい」
彼女は特に気に入らないというほどでもなかった
むしろ無い物ねだりってことなのか、彼女にない部分を持っていたのだろう

「顔が映ってないって、番組側の意図じゃないのか?」

「だってこれまであんなことなかったじゃない?」

「それには、ちゃんとした理由があるんじゃ…」

観てる途中で、
「バッカみたい!」と、TVを切った

同時にネット動画にも流された
反応は悲惨極まりなかった
【なんだよ、がっかりだな…何が"希望の星"だ。ざけんなよ】

【所詮ババドル需要なしってことか。二度と出すな!あんなバケモノ!】

【ぶりっこ、キモー!ヘドが出るわ!】

【何考えてるんだ、番組制作者は!放送事故で済まされる問題じゃねーぞ!】

【視聴率ガタ落ちだよ、あいつが出たとたん】

【"AAPA"のイメージ下がるじゃない!】
と、ブーイングの嵐だった
しかも、好評価は一つもなく、あれだけ動画サイトを炎上させるとは、これまでには例がなかった



(続く)