ユーコの部屋で一夜明かした紀子は、自分の部屋に戻り、この日は翌日かは始まるレッスンに備え、自室でゆっくりくつろいでいた
「今日はいい天気だなー!窓開けよっと」

(ん?)

彼女が目にしたのは、あひる荘から出てきて男と腕組みしながら歩いている摂子だった
(あんにゃろ~)

「へーい、不似合いカップル、なにいちゃついてどこへ行くのかい?」
紀子は冷やかすと、

「えへへへ…秘密ですよ~」
紀子に冷やかされた摂子は、"どうだ、うらやましいだろ"と言わんばかりにニヤニヤしながら歩いていた

(あんな賞味期限切れ女にも彼氏ができるとは、男も見る目ないね~)
紀子は恨めしそうに彼らを見つめていた

(私だって旦那さえいなければ…ま、いいか。あいつも向こうで女遊びやってるかもしれんし。それにしても彼、タイプだわ~背めっちゃ高いし摂子にはもったいない。豚になんとかよ)

摂子と彼氏と思われる男の身長差は30㎝以上ありそうだ
頭一つ分どころか、彼の肩までにも届いてなかった
(大人と子供みたいだな…でも彼、どこかで見たことが…)

紀子は彼の存在が気になっていたが、
(アパートから出てきたということは、まさか…?やっぱ、うちには関係ないや。目の保養にもならんし)

結局どうでもよくなった
すると、ピンポーンと誰かが彼女の部屋のインターホンを鳴らした

「こんにちは、白旗さん」
女が弱々しい声で挨拶をしながら、ドアを開けた

「あら、誰かと思ったら、かじゅかよ?まだ生きてたの?何の用?」

"かじゅ"こと松倉和代
紀子の下の階に住むアラフォーの未婚女性だ
幼少時に母親を亡くしたため、母の顔を知らない
そのせいか、性格は内向的で友人も少なく、不登校にもなった
兄がいて、父は再婚するが、継母とはなじめず、高校はどうにか卒業できたものの、それと同時に実家を離れ、あひる荘に住み着いた
あひる荘近くの小さな会社で事務員として働いていて、職場へは自転車で通勤している
また、自分のことを"かじゅ"と呼び、大人になった今でもそのくせが抜けない

「かじゅはずっと一人だから、話し相手が欲しくて。白旗さん、話のってくれませんか?」

「でも職場じゃ、ぼっちじゃないでしょ?私みたいなババアじゃ相手にならんよ」

「小さな職場だからあまりいない…いてもかじゅより年上だから相手にれない…」

「年上年下関係なくね?あんたの性格に問題があるからでしょ?飲み会はしないの?合コンは?婚活は?もし飲めるんだったら、うちでパーッとしなよ」

「ありがとうございます…でもかじゅ、お酒ダメなの…」

「つまんなーい。だからいつまでもぼっちなんだよ。何が"かじゅ"よ。私から見たら"カス"じゃない。さっさと、帰りな」

「そんなのひどい…白旗さんは何もわかってくれない…私の気持ちなんか…」

(ごめんね…)
和代は肩を落としながら、自分の部屋に帰った

(かじゅ、お酒苦手だから、飲めるようになりたい…)

「ったく、これだか、一生ぼっちなんだよ、あいつ。"かじゅ"というより"カス"じゃねーか」
紀子は呆れていた



(続く)