時が過ぎ、いよいよ最終審査当日を迎えた
最終審査に残った紀子ら三人は、会場であるレッスンルームに遅れずにやってきた
審査員は一次二次と違うメンバーだった

「皆さんおはようございます。君たちにとって運命の日がやってまいりました。どうか自分の実力を遺憾なく発揮してくれたまえ」
と、有馬は挨拶をした

「はい!」

「元気いいね~その調子で一人ずつ歌ってもらおう。持ち歌は各自自由だ」
紀子は一番最後に歌うことになった

(みんな上手い…デビュー間違いなしだわ…)
同じく最終審査に残った高井水絵、乙部堅太が歌い終え、ついに彼女の出番となった

(やっぱ緊張しちゃうな…)
「白旗紀子、"恋人よ"を歌います!」

(私、この歌が大好き…それを歌うためにここまで登り詰めた。私の想いとして受けとめてほしい…)
緊張がとけ、数名の審査員の前で落ち着いて歌うことができた
その表情は自信に満ちあふれていた
"オバサンをなめんじゃねーよ"と言わんばかりに、視線は二人に向けられていた

(あのオバサン、さっきからドヤ顔で俺らの方見てるけど、自信過剰じゃねーの?)

「結果ですが、30分後になります」
紀子ら三人は不安でそわそわしていた
紀子は自信満々だったのが、結果がわかるまではやはり不安を感じるようになった

30分後、ついに結果が発表された
「白旗紀子さん、おめでとうございます!」

(え?私?まさか…デビューするなんて…!)
彼女の目からは、嬉しさで涙があふれていた
長年の夢が叶った瞬間だった

「おめでとう。よくここまで頑張ってこれた。君の努力が実ったんだよ」
つらいレッスンに耐え、意地を見せてきた
その努力が実ったのだ
有馬をはじめ、審査員の方々も拍手して紀子を讃えた

「君の歌は心がこもっていたよ」
他の二人は悔しいながらも、
「おめでとうございます。応援しますから」
と、祝福した

「ありがとう。二人とも次の機会に頑張ってね」
紀子は涙を拭いながら、二人に励ましの言葉を贈った

「先生!ありがとうございました!私がここまで頑張ってこれたのも先生のおかげです。先生がいなければ、私…」
彼女は涙が止まらず、言葉を詰まらせていた

「もう泣くな。とりあえずおめでとう。君に取っておきの名前を用意しておいたよ」
有馬はノートの切れ端に紀子の芸名を書き、彼女に見せた

「いくつか考えたんだけど、これがいいかと。でも気にいるかどうかは…」



(続く)