やがて紀子があひる荘に戻ってきた
「白旗さん、お疲れ様です」
知加子が声をかけた
「今日レッスン休んだ」
「ど、どうしたんですか?声ガラガラじゃ…」
「だから休んでって言われたのよ!」
紀子は激しい口調で言った
「そうでしたか。お大事にしてください」
彼女は自室に戻り、"アアー"と声出ししたが、依然しわがれたままだった
(もう治らないのだろうか…このまま終わらせたくない!)
歌手をあきらめなければならないのか、夢にまで見た彼女の人生に終わりを告げなければならないのか
もはや泣き寝入りするしかないのか
「えーい、やけ酒だ!」
彼女は自暴自棄に陥り、その悔しさを紛らわすため一升酒をあおった
そして、その場でぐっすり眠った
(どうか最終までには治ってますように…)
レッスンを休んで数日が経ち、紀子の声はすっかりよくなっていた
「よっしゃー!絶好調やー!これで張りきってレッスン受けにいくぞー!最終審査に向けて頑張るぞー!」
彼女のやる気スイッチが入った
気合たっぷりでレッスンに臨めそうだ
事務所に行くと、
「おっはよーございまーす!」
「白旗さんやる気満々ですね~」
「あったり前じゃん!しばらくレッスンやすんでたもん。治ってくれてよかったよ。で、あとの二人は?」
「二人とも調子いいですよ。でも、白旗さんのことは気にかけてなかったみたい」
「私がいなくて清々したって?そりゃ練習に集中できるわ」
「とにかく自分のペースでやってちょうだいね」
「はーい、休んだ分は取り返さないと!」
紀子は休んだ分を取り返そうと必死になっていた
「先生!おはようございます!長らくレッスン休んですみませんでした!」
「おっ、白旗さん、もう声は大丈夫なんだね」
「はい、休んだ分を取り戻すため、みっちりしごいてください!」
「おーっ、張りきってるな。では始めるぞ」
「アーアアーアー…」
彼女は発声練習を始めた
「いいぞ、その調子だ。もっと高い声出せないか?最終には受からないぞ」
「アーアーアーアー…」
(ちょっとキツい…これが精一杯…)
「ま、これくらいならいいだろう。また悪くなってはいけないし。これから曲を流すから、音程を外さずに歌ってもらおう」
(エェー、いきなりかよ)
流れてきたのは、二次の時に歌った"ありのままで"だった
(また歌うの…?これ…)
紀子はレッスンを休んだ分を取り戻す思いで歌い始め、見事に音程を外さずに歌いきった
「素晴らしい!」
有馬は拍手しながらベタほめした
「あれだけレッスン休んでたにもかかわらず、よくやったよ。やっぱり君には才能がある」
実は紀子、スナックのホステス時代に客の前でよく歌っていた
彼女の歌目当てに来る常連客も多かったが、性格のキツい彼女はしょっちゅう客とトラブルを起こしてクビになった
レッスンが終わり、雪美から連絡を告げられた
「白旗さんお疲れ様でした。最終審査の日時ですが、十日後の午前10時より当事務所のレッスンルームにて行います。他の二人にも伝えておきますのて、遅れないように来てください」
「わかりました!50年近く生きてきて遅刻なんて一度もしたことないですから!」
と、紀子らしい強気な口調で答えた
(十日後ねぇ…)
「もう、白旗さんったら。でもそこがあなたらしいですよ。では頑張ってくださいね」
「はーい!頑張るきゃないでしょ!」
(最終審査が待ち遠しい…)
(続く)
「白旗さん、お疲れ様です」
知加子が声をかけた
「今日レッスン休んだ」
「ど、どうしたんですか?声ガラガラじゃ…」
「だから休んでって言われたのよ!」
紀子は激しい口調で言った
「そうでしたか。お大事にしてください」
彼女は自室に戻り、"アアー"と声出ししたが、依然しわがれたままだった
(もう治らないのだろうか…このまま終わらせたくない!)
歌手をあきらめなければならないのか、夢にまで見た彼女の人生に終わりを告げなければならないのか
もはや泣き寝入りするしかないのか
「えーい、やけ酒だ!」
彼女は自暴自棄に陥り、その悔しさを紛らわすため一升酒をあおった
そして、その場でぐっすり眠った
(どうか最終までには治ってますように…)
レッスンを休んで数日が経ち、紀子の声はすっかりよくなっていた
「よっしゃー!絶好調やー!これで張りきってレッスン受けにいくぞー!最終審査に向けて頑張るぞー!」
彼女のやる気スイッチが入った
気合たっぷりでレッスンに臨めそうだ
事務所に行くと、
「おっはよーございまーす!」
「白旗さんやる気満々ですね~」
「あったり前じゃん!しばらくレッスンやすんでたもん。治ってくれてよかったよ。で、あとの二人は?」
「二人とも調子いいですよ。でも、白旗さんのことは気にかけてなかったみたい」
「私がいなくて清々したって?そりゃ練習に集中できるわ」
「とにかく自分のペースでやってちょうだいね」
「はーい、休んだ分は取り返さないと!」
紀子は休んだ分を取り返そうと必死になっていた
「先生!おはようございます!長らくレッスン休んですみませんでした!」
「おっ、白旗さん、もう声は大丈夫なんだね」
「はい、休んだ分を取り戻すため、みっちりしごいてください!」
「おーっ、張りきってるな。では始めるぞ」
「アーアアーアー…」
彼女は発声練習を始めた
「いいぞ、その調子だ。もっと高い声出せないか?最終には受からないぞ」
「アーアーアーアー…」
(ちょっとキツい…これが精一杯…)
「ま、これくらいならいいだろう。また悪くなってはいけないし。これから曲を流すから、音程を外さずに歌ってもらおう」
(エェー、いきなりかよ)
流れてきたのは、二次の時に歌った"ありのままで"だった
(また歌うの…?これ…)
紀子はレッスンを休んだ分を取り戻す思いで歌い始め、見事に音程を外さずに歌いきった
「素晴らしい!」
有馬は拍手しながらベタほめした
「あれだけレッスン休んでたにもかかわらず、よくやったよ。やっぱり君には才能がある」
実は紀子、スナックのホステス時代に客の前でよく歌っていた
彼女の歌目当てに来る常連客も多かったが、性格のキツい彼女はしょっちゅう客とトラブルを起こしてクビになった
レッスンが終わり、雪美から連絡を告げられた
「白旗さんお疲れ様でした。最終審査の日時ですが、十日後の午前10時より当事務所のレッスンルームにて行います。他の二人にも伝えておきますのて、遅れないように来てください」
「わかりました!50年近く生きてきて遅刻なんて一度もしたことないですから!」
と、紀子らしい強気な口調で答えた
(十日後ねぇ…)
「もう、白旗さんったら。でもそこがあなたらしいですよ。では頑張ってくださいね」
「はーい!頑張るきゃないでしょ!」
(最終審査が待ち遠しい…)
(続く)