朝日奈家では、唯助がいなくなって一週間が経とうとしていた

捜索願を出したにもかかわらず、彼を目撃したという知らせが入ってきていない

爛は居間に行くとPCの電源がついたままになっていた

彼女は何日も居間に行っていなかったので、たまたま用があってそこにいったときだった

(あれ?使っていないはずなのに…兄ちゃんたちが使ったのかな?いや、自分のがあるから使わないか。じゃ、切っとこ)

長兄・天がバイトから帰ってきた

「ねぇ、さっき居間に行ってみたら、PCの電源がついたままになってたよ」

「俺は自分のがあるから。お前が使ったんだろ?」

「ううん、あたしずっと居間に行ってないもん。お母さんいなくなってからもついたままになってたから、その時は切っておいたけど」

「じゃあ、使ったとすれば、オヤジだな。オヤジはそっちに行ってるの見たことあるのか?」

「ないよ。お父さん、ご飯食べたらそのまま寝ちゃうから。それにPC使えないじゃん」

(つけっぱなしにしているなんて、他人が勝手に入ってくるわけじゃないし…)

「でも、考えてみな。オヤジのような使いこなせない奴が使ってたらろくな扱いしないからな。電源の切り方がわからなかったりするじゃない」

「お父さんが使ってるの、見たことあるの?あたしはないよ。だって、お母さんのネット依存にあきれてたもの。"けっ、くだらん趣味持ちやがって"って言ってたし」

「バリバリのアナログ人間だからな、オヤジは。でもさ、退屈しのぎでついいじってみたり」

「うーん、使ったとしたら、お父さんかも…兄ちゃんたちは自分のがあるし、あたしはお母さんと一緒のだけど、普段は使わないから…」

「爛、お前本当に使ってないのか?」

「あたしは最近ネットやらないから」

(誰だ…)

「ところで、ほまれおばちゃんから連絡あった?」

「ないよ。いろんなところから聞いたりしてるけどね」

「あたし、お父さんのことを考えると、ずっと眠れない日が続いてるから…」

「そんなにオヤジを心配してるとは。そういえばオヤジ、お前を一番可愛がってたからな。娘だけあって」

「早く見つかればいいのに…でも複雑だわ。お母さんみたいに急にいなくなって何も連絡もないなんて」

「そうだよな。母ちゃんいなくなったときもあんな感じだったし」

「それとも、仕事クビになって生きるのが嫌になったとか…」

「そんな気弱な人じゃないだろ、オヤジ。まさか、彼女できたりしてね」

「それ、前にも言ってたよね?」

「仕事なくなったら探せばいい。今ごろ就活してるんじゃないか?でも、オヤジくらいの年齢じゃ、厳しいかもな」

「出稼ぎでも行ったのかな?おばちゃんに聞いてみようよ」

「そうだね。オヤジのことよく知ってるからな」

天は、叔母・ほまれに電話をした

「おばちゃん、こんにちは。オヤジの行方つかんだ?」

「あら、たかくん久しぶりね。勉強頑張ってるんだ。兄さんからは何の様子がなくて、職場からも連絡がないの」

「何もないよ。つーか、クビになっちゃったよ。自分、もうじき試験だし、今度こそ受かってほしいから遊んでばかりいられない」

「えーっ?!クビになったんだ。早く次の仕事が見つかればいいよね。たかくん、バイトもしてるんでしょ。大変よね」

「うん。バンドもやってるけど、休んでる」

「バンドって、どんなジャンル?」

「うーん、ロックかな。俺はギターやってるけど、上手くなれないし」

「へぇーっ、憧れる。私も学生のころギターやってたよ。部活でね。今は弾けなくなったけど」

「えーっ、もったいないなあ。一緒に演奏したいのに」

「夢で終わらなければね」

「ありがとう、おばちゃん」

天は電話を切った

「どうだった?」と、爛

「何もないって」

「ちょっとあたし、久しぶりにネットやってみる」

爛はPCの電源をつけた

画面に写ったのは、「夢の世界・スイートルランド」だった

興味半分でそのサイトを見てみた

すると、

(な…なに…お母さんそっくりな人がいる…)

「たか兄、大変なの」

「どうしたんだ!」

「お母さんが…お母さんが…!」

「何寝ぼけてるんだ」

「ちょっと見てよ」

彼らが目にしたのは、お姫さま姿の母・良枝だった

次兄・真も部活を終えて帰宅

「まこ兄、お母さんここにいるの」

「ええーっ?!ウソだろ?」と、真はPCの画面を覗いた

「見てよ、お姫さまの格好してるの、お母さんじゃない?」

「うん、似てるけど、ちょっと違うような…母ちゃん普段は化粧っ気なくだらしないからね。想像つかないや」







(つづく)