夜が明け、子供たちが起床―
「おはよ」
「オヤジ、帰ってきてるだろうな。おーい」
「あれ?帰ってきていない…どうしたの…」
(やっぱ飲み友ン家でお泊りしたのかな)
「遅くなったから、友だちン家で泊めさせてもらったんじゃない?」
「職場の飲み友か。なら心配いらなかった。このまま仕事に行ったんだと思うわ」
「うん。朝ごはん食べて学校行こ」
子供たちは、朝食を食べ、学校に行く準備をした
「いってきま~す」
三人は家のカギをかけ、学校に向かおうとしたときのことだった
家の電話が鳴りだし、爛はあわてて受話器をとった
「はい、朝日奈ですが」
「朝霧土建の安戸と申します。娘さんですね?これから学校行くところ失礼します。実はお父さん、まだ来られてないのですが…」
電話の主は唯助の勤務先の上司からだった
(え…お父さん会社に来てないって…)
爛は固まって何も言えなかった
「こっちに連絡もないのですよ。昨日も来てませんでしたから…」
(お母さんの次はお父さんも…お父さんまで…)
「何も連絡がなかった、ということは無断欠勤ですよ。このままだと、解雇せざるをえません」
「昨日は、朝いつものように仕事に出かけましたが…」
「でも、来てなかったのですよ」
(お父さん家出…?)
良枝に続き、唯助もいなくなると朝日奈家は子供たちだけになる
「昨夜お父さんが帰ってくるのを日付が変わるまでみんなで待っていました。だけど帰ってこなかった。友だちンち家に泊まったのかと…」
「昨日から家を出ていったきりですか。本人からは何も連絡はなかったのですか?」
「はい。お父さんの携帯に電話かけても留守電ばかりで。叔母さんにも聞きましたが、何も様子がなかったです」
「お父さんに言っておいてください。もう来なくてもいいって。忙しい時にごめんね。気をつけていってらっしゃい」
「わかりました。じゃ、いってきます」
爛は父がクビになる覚悟を決めていることは知らなかった
唯助は、会社が不景気のあおりを受けているため、職を変えることを考えていたそうだ
しかし、彼くらいの年齢になるとそう簡単に決められない
(お父さん、仕事うまくいってないかも。あたしたちが学校出たらお父さんを助けなくては)
子供たちは、いずれ年取って働けなくなる父のために早く学校を卒業したら親孝行するつもりでいる
予備校通いの長男・天(たかし)は、バイトで学費を稼いでいる
大学に進学してもバイトは続けるという
美容師志望の二男・真(まこと)は部活で忙しく、バイトする余裕がない
そして、娘の爛(らん)には、母と同じ看護師を目指してほしいのだが、音楽の道へ進みたがっている
(だけど夢をあきらめるしかないのかな…)
彼女は、すかさず兄たちに電話をした
「たか兄、お父さん仕事に来てないって、さっき上司から電話があったの」
「ええーーーっ?!無断欠勤かよ?どこ行ってるんだ?警察に捜索願出そうよ」
「そうね。あたし学校終わってから捜索願出しに行ってくる」
次兄・真にも、
「お父さん仕事に来ていないの。昨日から出て行ったきり帰ってこないと思ってたら…」
「家出かよ。母ちゃんいなくなったら困るけど、父ちゃんはどうでもよくね?」
「う~ん…でも、また警察のお世話にならなければならないのもどうかな…」
「俺たち残してふらっと出て行くなんて無責任だよな」
「そうよね。学校終わったら捜索願出してくるわ」
「ありがとう。頼んだよ」
爛は、学校が終わると、警察に捜索願を出してもらいに行った
(つづく)