夕方になり、唯助が仕事から帰宅―


「ただいま~。疲れたよ。年取ると体があちこち痛くなってこたえるよ」


「おかえり~~~~。あ・な・た」


「おいっ、お前誰なんだ?まさか、ほまれ…?」


「あたしはほまれじゃなくて、ベティよ。あなたの兄さんじゃないわ」


「ベティ?」


「そう。あたしの”もう一つの顔”は、実は魔女なのよ」


家では、ほまれが魔女に扮して兄の帰りを待っていた


彼女の”もう一つの顔”といっても、魔女になりきっただけである


「うそだ…嘘だろ…ほまれが魔女だったとは…」


「あなたはあたしに一生つかえなければならない。これは魔法界での掟よ」


「うわーーーーっ!!なんてこったーーーー!!俺の愛しき妹が、こんな姿になってしまうとは!」


「もうあなたはあたしの兄さんじゃなくなったの。あなたを”一人の男”として見ているの。あなたはあたしのものよ。あなたには誰にも指一本触れさせたくないわ」


”魔女・ベティ”になったほまれは、唯助を自分の兄として見られなくなり、彼は彼女の言いなりになっていた


それでも、彼は嫌がることなく、ひたすら彼女の相手になってあげた


良枝とは事あるごとに衝突していた唯助だが、”ベティ”ことほまれとは、そういうところがなかった


だから、彼も安心していたのだろう


「ねぇ、お願いがあるの。あたしね、あなたのダーリンになりたいの」


(じょ…冗談だろ?!ましてや、人妻しかも妹と…マジかよ?!)


「バ…バカかよ、お前?頭イカレてるのか?亭主ほっといていいのかよ?もし、それを知られたらどうなるのかわかってるのか?」


「大丈夫よ。バレないようにするから。あたしのハート、う・け・と・め・て」


「うわぁ~~~~~~!!!」


(よりによってババア相手とは…気持ちワリィな…ヨメもアレだが、ほまれも大して変わらないな)


唯助はまるで悪夢にうなされたかのようにベティに迫られ、彼の頭の中は、ボーッと空っぽになっていた


「どう?あたしの魔力は。あんなバカ女にかなわないでしょ?」


「いや…どっちもどっちだよ。それより、さっさと帰りな」


「あら?サービス悪かったみたいね。それとも、あたしのやり方に不満があるとでも?」


「そうじゃなくて、亭主心配してるぞ。そいつにバレたらどうするんだ」


「なに言ってるの。わからないようにしているから、したのでしょ?」


「けっ、お前も悪魔だな。なにが”ベティ”だ。亭主にチクってやるぞ」


「兄さん、それだから奥さんに逃げられるのよ」


「余計なお世話だ。とっとと帰んな」


「言われなくても帰るわよ。じゃあ」


ほまれは怒って唯助の元から去った


もう二度と朝日奈家に来ないと決めた


(ふぅーっ、どいつもこいつもなろくでなしばかりだ。まともなのは俺だけかもな)


唯助は呆れてものが言えなかった


(あれ…?)


その時だった


彼の上着のポケットに入れていた財布が消えていた


(まさか…ほまれの仕業か…くそぉー、やっぱりあいつは悪魔だ)


その財布は大金でないが、現金の他に、銀行のカード類が入っていた


(今度会ったら返してもらわないとな!)







(つづく)