良枝がいなくなってからは、父子四人の生活が続いているが、彼女の行方はいぜんつかめていない


その時、唯助の妹・ほまれから電話がかかってきた


「あ、この前はありがとうな。おいなり、美味しかったよ。一人で食っちまった」


「えぇーっ?!子供の分、残さなかったの?」


「腹減ってたんだ。美味しすぎてつい…」


「またメタボるよ」


「ダイエットなんてできるかよ」


「兄さん、ずっと一人で子供の面倒見るの大変でしょ」


「別に。子供は手がかからなくなったから、どうってことないさ。それよりヨメに手がかかるよ」


「あははは…兄さんったら、あんまり良枝さんからかったらダメよ。だから家出しちゃったんじゃない?」


「せめてメモでもして書き置きしとけばな。あいつ、何も言わずに出てってたからな」


「子供らはどう思ってるの?」


「俺を毛嫌いしてるよ。ヨメの肩ばっかり持ってさ。”オヤジがいなくなればいいんだ”って。俺の生きがいといえば、AV観ることだな」


「まぁ、兄さん、そんな趣味があっただなんて、いい年して恥ずかしいわ」


「仕方ないだろ。フーゾク行くにせよ金がかかるしな」


「観るだけじゃ満足しないでしょ。やっぱリアルでないと」


「そうだな。うんと稼いで、遊びまくって、美女に囲まれて。ハーレム生活するのが俺の夢だからな」


「兄さん、あっちが元気だから、良枝さんついていけなかったのかも」


「いや、あいつは拒否るばかりしてたから。あいつから誘うってのは滅多にないな。だから、俺も誘わないよ」


「それでよく三人も子供作ったよね。一番不憫なのは子供たちじゃない?」


「俺の”タネ”がよかっただけさ。”ハタケ”はどうか知らんが」


「あたし二人いるけど、一人でも大変なのにすごいじゃん。なんで三人も作ったの?」


「あいつ一人っ子だから、子供は多い方がいいって言ってたよ。俺は一人でもよかったがね」


「今日ね、主人出張でいないんだ。あたしでよかったら、うふふ…」


「おい、よせったら。ま、あいつよりはマシかもな」


「じゃ、これから行くね」


そんなこんなで、兄妹は”下ネタ”話などで盛り上がっていた


ほまれの夫は、この日は、二泊三日の出張で、兄・唯助の寂しさを紛らわすため、”お泊り”の約束をした




そして―


「こんばんは~」


「おっ、どうしたんだ。この格好、いつものお前じゃないぞ」


「この日のために着てきたの。どう、似合うでしょ」


ほまれは、いかにもはちきれそうなひざ上丈のワンピースを着てやってきた


彼女が働き始めた頃、初めての給料で買ったお気に入りのワンピースだった


年数が経ち、体型が変わったとはいえ、なんとか着ることができた


唯助は彼女を見て、こう言った


「いや~、それって、十代の頃に買ったやつ?いまだ着れるなんてすげーな」


「あら、なんで知ってたの?もうちょっとダイエットすればよかった~そしたらもっと似合ってたのに」


「あははは、ダイエットしても似合わないって」


「もうっ、兄さんったら」


二人は、日頃のストレスを晴らすかのように思いっきり楽しんだあと、”夢の世界”に行った


(キャーーーー、何するのよ!子供たちを殺すのなら私も殺してよ!私らが死んだら、あなたも死ぬのよ!)


(待て!!俺はそんなことはしない!人殺しでなんてきるか!)


(うそ…嘘でしょ?包丁持って暴れてるくせに!)


(うぉーーーーーーっ!!一家心中だ!!この家に火をつけてやる!もう朝日奈家とはおさらばだ!)


(やめて!やめてったら!!死ぬのはあなただけで上等よ!あなたさえいなければ、我が家は平和になれるのよ!)


唯助は、悪い夢にうなされ、汗だくになって目が覚めた


(なぜだ…最近あいつの夢ばかり見る…それが現実なら、ゾッとする…今ごろどうしているか。だけど、俺にはもうあいつは必要ないんだ…)


ほまれも、兄の悲鳴に目を覚まし、


「どうしたのよ、兄さん。汗ダラダラじゃない!暑かったんじゃ…」


「いや、最近変な夢ばかり見るんだ。ヨメがロープを持って俺の首を締めようとしたり、ヨメがマンションの屋上から飛び込んだり、ヨメが首吊りしたり。俺はあいつの変な夢で毎晩うなされているんだ。何かに取り憑かれたかのように…でも、あいつが死んだとしても、俺は悲しまないがな」


「可哀想ね、兄さん。良枝さんから頭が離れないんだ」


「お前、もう帰るんだろ?」


「ううん、まだいてるよ。兄さんだけじゃ、寂しいじゃない?主人出張から帰ってくるの、明日の晩だし」


「これから仕事行かないと。子供も起こさなきゃ」


「じゃ、朝ご飯作るね。子供らも学校でしょ」


ほまれは、家族に朝食を食べさせ、彼らを見送った


(フフフ…あたしの”もうひとつの顔”教えてあげる)


彼女の目がギラっと光った








(つづく)