「これで舞踏会に出られても、その顔でアイル様と踊るなんて恥ずかしいよね。あははは…」


「あなたたちが羨むのはわかるけど、なぜあんな仕打ちをするのですか。私をいじめて面白いのですか?」


「まぁ、アイル様と踊れるからって、調子に乗るんじゃないわ。あんたはあの顔じゃもう無理ね。気の毒に」


ピンクは女中仲間の執拗ないやがらせを受け、泣きながら自分の部屋に戻った


(もう王子様と踊れない…傷ついた顔で舞踏会に出られない…恥ずかしくて見せられない…)


その時、またしても例の妖精がピンクの元にやってきた


「またいじわるされたのですね。あなたにお似合いのドレスが見つかりました。んころんころ…それっ」


彼女は妖精におまじないをかけられ、舞踏会に着ていくドレスを身にまとった


(それにしても、面白いおまじないね)


「すごくお似合いです」


「ありがとう。でも、こんな傷ついた顔で舞踏会に出られないわ」


「大丈夫です。あなたは心が美しいから、きっと元に戻れます。んころんころ…それっ」


またも妖精はピンクにおまじないをかけた


すると、彼女は元の美しい顔に戻った


「鏡を見てください。もうアイル様に恥ずかしい思いをしなくてすみます」


「うわっ…頬のキズがなくなってる…ありがとうございます、妖精さん」


「それでは、その日を楽しみにしてくださいね。ところで、あなたはなんてお名前ですか」


「ピンクです」


「わたしはメリー。もし、困ってることがありましたら、わたしを呼んでくださいね」


「メリーさん、ありがとう。これからもよろしくお願いします」


(メリーさんのおかげで、私は守られてるんだわ…もし、メリーさんがいなければ私はずっと女中仲間からいじめられてるかも)


妖精・メリーに助けられたピンクは、舞踏会に出るのを心待ちにしていた


(やっと王子様に会えるんだ!踊れるんだ!)


しかし、彼女の部屋は灯りもなく真っ暗で、古びた机に椅子一脚、そしてベッドがある


ベッドも、薄い布団が一枚敷いてあるだけだった


食事も、城にあるキッチンで当番制になっており、女中らが交代で作っている


彼女たちの食事はいたってお粗末、肉や魚は一切なく、一汁一菜だ


それでも、彼女たちは文句は言えない


「あたしたちの仕事は、スイートルランドの王様、お妃様、そして王子様に一生懸命つかえ、命を捧げる。だから、あたしたちは贅沢は御法度なのよ」


「ところで、あの虫けら、ずっとゴミにまとわりついてるけど、どういうことよ」


「さあね。クソゴミ、今ごろ草場の陰で泣いてるかもよ」


「ゴミが舞踏会出られなかったら、あたしたちにもチャンスがあるってことかな」


「こんにちは」ピンクはメリーにあつらえてくれた綺麗なドレスを着て、女中仲間の前に現れた


「あら~、顔のキズもう治ったの。それにあのドレス、どうしたのよ。あ、貧乏だから買えないか。またあの虫けらの仕業なの?」


「心の醜い人にはいくら魔法をかけても効かないって。メリーさんが言ってたわ」


「じゃぁ、あんたの心は綺麗ってことね。プーーーツ、ボロは着てても心はナントカって」


「でもね、ドレスは似合わないね。まさに、”ブタになんたら”よね」

(私、現実世界じゃ、顔も心も醜いけど、この世界にいると、まるで別人…ずっとここにいたいな)


ピンクは現実の世界にはもう戻りたくないと決めていた


来たばかりの頃は、居場所がなく、仲間たちのいじめの的になっていたが、強い味方ができたことに安心し、明るく前向きになれた


(いつかは王子様のお妃になりたいな…)






(つづく)