「ねぇー、いつも不機嫌な顔してるけど、何か嫌なことあったの?」
「いや、いつもそうだけど、なんか俺の言い方がおかしいんか?」
「ほら、なんていうのかな、ぶっきらぼうで、無表情でさ、ニコニコしてくれたらいいのに」
「冗談じゃねーよ。俺がニコニコしてたら気持ち悪いだろ?」
「でも、怒ってる顔の方が嫌だよ」
「そういうお前こそニコニコしてろよ。無愛想な女、俺は大嫌いだ」
「だって、私に冷たいんだもん。それに、俺様口調やめてよ」
「はぁ?やめられるかよ。これが普通だろ!」
と、いつもこんな感じで口論となってしまう
(俺ってそんなに不機嫌な顔してるのか?自分の顔、鏡見てるけどそう思わないな)
と、唯助はドヤ顔していた
彼はどちらかというと、ブサイクな部類に入る
エラが張った四角い輪郭、太い眉毛、二重だが小さい目、だんご鼻、分厚い唇…おまけにチビで短足、ハゲている
というか、完全にブサイクである
良枝も、美人とは程遠く、つり上がった目、低い鼻、下がった口角…と、これまた不幸な顔相をしている
いうならば、似た者夫婦といえる
子供たちは、なぜか親に似ていない
突然変異か、と笑っていたが、親の悪い所まで似てしまったら、いじめに遭ったり恨まれるし不憫な想いをさせるけど、そうでないおかげでのびのび育っている
それが救いだ
三人の子供━
長男・天(たかし)・・・大学受験に失敗し浪人中、再度受験に向けバイトをしながら予備校通い、趣味はギターでバンドも作っている、好物はカツ丼
次男・真(まこと)・・・高校一年生、部活はバスケ部、美容師になるのが夢
長女・爛(らん)・・・中学二年生、クラスで学級委員長をするくらいリーダーシップに長けている、友人も多く、趣味はピアノ、特技は作曲
子は親の鏡、親の姿を見て育つが、なぜか彼らはそういうところがない
まさしく名前の通り、天真爛漫な子供たちだ
欄は、母と同じ看護師の道を進んでほしいが、本人は嫌だと言っている
今は義両親は他界し、夫婦と子供たちだけとなった
良枝は長年の介護から解放された喜びでほっとしていた
子供たちも、親の背丈を越えてみるみる成長していた
だが、夫婦関係は相変わらず良くない
むしろ、悪くなる一方だ
(これでは底なし沼になってしまう。修復は無理かも…唯助に愛情なんてこれっぽっちもないわ。所詮見合いのスピード婚だったもの)
彼女は離婚を考えるようになっていた
唯助も仕事のストレスを家庭にぶつけるべく、家に帰ると、浴びるほど酒を飲み、良枝や子供に暴言を吐いていた
「出て行け!ここは俺の家だ!俺以外この家に居させてたまるか!」
彼は、仕事人間で、職場からは良き先輩として慕われ、後輩を思いやるなど、優しい面もある
しかし、家に帰るとまるで別人のように人柄が変わる
「お前らといると酒が不味くなる。あっち行け」
良枝は唯助には憎しみの心しか持たなくなった
大病患うか事故に遭って死んでくれたらいい、他の女と浮気してくれたらいい、いっそ殺して自分も死ぬ、とにかく唯助の存在を消してしまいたいほど憎くなってきた
(ま、浮気する柄じゃないし、あのルックスじゃね。私も他人のこと言えないけど)
ネットの出会い系とか興味はないくせに、夜な夜なエロビばっか観てるから、まだそっちに関心持ってるのかな~って
まだ”やりたい”欲望はあるのだろう
夫婦はレス十年目になり、年数が経ち子供の成長とともに、そっちに関心がなくなってきた
良枝は、(あんなキモゴリラとはやりたくない。へどが出る)ほど、唯助を毛嫌いしている
良枝は専業主婦で、家事以外の空いている時間は、ネットサーフィンしている
これといった趣味のない彼女は、それが楽しみだ
ネット依存になっているのを心配している唯助は呆れて、PCを没収すると言っていた
(なによ、何も興味を持たないくせにあんたの言うことは聞きたくないわ)
そんなある日、PCを開き、いつものようにネットサーフィンを楽しんでいると、
”夢の世界・スイートルランド 女中募集中・夢のお城で王子様と会ってみませんか?”
というサイトを見つけた
(えっ?女中?王子様?お城?でも、スイートルランドって、小さい島なんだ・・・)
彼女は目を輝かせながら、じっとそのサイトを眺めていた
(女中になってもいい。王子様に会ってみたいな…)
(つづく)