ユミコは、店が忙しくなるにつれ、一人で切り盛りするのはさすがにきつくなってきた


それでも、彼女は、


(甘えてはいけない、弱音を吐いちゃダメだ…自分がヒロシさんもいるつもりでやっていかないと…彼がいないとできない、なんて言ってられない)


かつての弱気な彼女とはまるで別人のような変わりっぷりだ


そして、目指している店がある


それは、”ライラック”だ


(リョウさんも最初は何もできなかった。だけどタカヨさんのおかげで自分のお店を持ち繁盛させている。私もいずれはパートナーを持って、店を大成功するよう頑張らなくては!)


”みんかcafe・はづき”では―


開店時間がやってきた


準備に追われていたユミコは、なんとか時間に間に合った


(ふぅ~間に合った~)


すると、最初の客が来店


「いらっしゃいませ。あら」


「おはようございます。ユミコさん」


「お義姉さん、さっそく来てくれてありがとうございます。メニュー表見てお決まりになったら呼んでください」


来店したのは、なんとヒロシの姉だった


(わぁ、創作メニューがたくさんある…)


「普通の家をカフェにするなんて、発想がいいですね。庭もついているからくつろげます。お店は一人でされてるのですか?」


「はい。ランチタイムになると一人じゃてんてこ舞いになります」


「そこそこ繁盛してるんですね。ここはデザートというか、スイーツはどんなのがあります?」


「お義姉さんはスイーツ好きなんですね。意外です」


「私、大好きなんです。この歳で、スイーツ好きっておかしいでしょ?」


「えっ、おかしくないですよ。80過ぎた私の母も大好きです」


「おすすめはありますか?コーヒーとかセットになってますよね?」


「もちろんです。かぼちゃプリンに、かぼちゃモンブラン。かぼちゃづくしです。かぼちゃは野菜を作っている農家が母の身内にいますから、その人からもらってます」


「材料もらうなんて、大助かりですね」


「おかげで、材料のコストがかからずに済みます。お義姉さんに特別にサービスします」


やがて、次々と客が増え始め、ユミコも”なんとかの手も借りたい”ほど忙しくなってきた


(さすがに人手が欲しいところ…)


”Three Piece”の頃には思いもよらなかった忙しさに、彼女は嬉しい悲鳴をあげていた


傍にいる母も大喜びだった


(娘が輝いて見える。自分の人生の中で最高の親孝行ができたかもしれない)


すると、母が、


「私も手伝う。忙しくしている娘を見ていると、じっと見ている場合じゃない」と、店の手伝いをした


「お母さん、ありがとう。でも、無理しないでね」


ユミコは高齢の母を気遣った


ヒロシの姉は、「お母さん、元気そうですね」と言うと


「もう年だし、動くのがやっとだよ。娘のためにできることは手助けしてあげたいよ」


母は、年齢を感じさせない、はっきりとした口調で答えた


「お母さん、気持ちだけは若いのですよ」と、ユミコは笑った


(今まで見せたことない笑顔だね。私も張り切っちゃうよ)


母娘の微笑ましい姿を見ていると、姉は”私まで嬉しくなっちゃうよ”と、ほっとしていた


「お待たせしました」


「美味しそう。もう一つサービスしてくれるなんて嬉しいわ。じゃあ、いただきます」


姉は美味しそうにケーキを食べていた


「こんな美味しいもの食べるのは初めてです。ユミコさん、ごちそうさまでした」


「私も美味しいって言われるのは初めてです。前の店では閑古鳥が鳴いてて、たまに来てくれるお客さんからもクレームばかりつけてきてやる気なくしていました。この店始めてから本当にやりがいがあります。ありがとう、お義姉さん」


「こちらこそ、ありがとう。また来ますね」


姉は、”みんかcafe・はづき”のリピーターになることを決意した


「あ、お義姉さん、お礼を言いたかったことがあって…」


「えっ?」


「お店閉めてから電話しますね」


「あ、あのことで?それならいつでも結構ですよ」


だが、その時だった


店の外から騒がしい声が聞こえてきた




(つづく)