ただ、気になってることがあった
ヒロシらがアパートに住んでいた頃、家賃が滞納していた分は、彼の姉が立て替えてくれていたのだ
姉曰く、ヒロシの生命保険を以前彼自身がかけていたのがすでに満期になっていたのだった
本人が死亡したため、その保険金の受取人が前妻でなく、ユミコに名義変更されていた
姉はそのことをユミコに伝えるのを忘れていたのだ
また、ユミコも夫亡き後も旧姓に戻さなかった
(彼はいつまでも私の心の中で生きている…)と
”もしもし、ヒロシの姉ですがユミコさんですか。お仕事中失礼します。実はヒロシの保険金の件で伝えておきたいのですが…”
姉はユミコのケータイに電話をかけた
”お義姉さん先日はお世話になりました。アパートの家賃立て替えてくれてありがとうございました。ヒロシさんの生前中は迷惑ばかりかけてごめんなさい”
”ヒロシの保険金が満期になっていたんです。で、受取人がユミコさんになってまして、都合の良い日でかまいませんので、私のところに来てもらいませんか?”
”お義姉さんの家はどこですか?それと、印鑑要りますよね?私、印鑑のある場所わからないんです。あと保険証書はどこにあるのか、前のアパートにはなかったと思うのですが…”
’家は実家があったすぐそこです。証書と印鑑は私が持っています。満期だとかなりの額になってると思います。そういえば、ヒロシ、お店が潰れて借金抱え込んで随分悩んでいましたね”
(やっとそれで借金が返せるのね…)
”でもいいのですか?私が受取人になってるなんて、お義姉さんだって受け取れる権利あるはずです!”
”私はいいのよ。これでチャラになると思うわ。渡しておきたいものがありますから、明日私の家に来てください”
(それが、もっと早く分かっていたらヒロシさん命を絶たなかったはず…)
翌日―
ユミコは姉の家に行き、姉はヒロシの保険証書と印鑑をユミコに渡した
(受取人が私になっている…前の奥さんじゃなかったの…?)
「どうぞ自由に使ってください。これで借金は完済出来ると思います」
「ところで、なぜお義姉さんが持っていたのですか?」
「実家が親を亡くしてから誰も住む人がいなくなって、取り壊すとき銀行の通帳など、大事なものだけ持っていったんです。それらは、ずっと私が預かっていました。もちろん全く手をつけていません」
満期になっていた保険金の金額も相当なものだった
(これで、やっと返せる…借金地獄から解放される!頭抱えて悩まずにすむんだ!)
「ありがとうございます、お義姉さん。あなたのおかげで私たちは助かりました。本当に感謝します」
「そうなんですか。お役に立ててよかったですね。ところで、ユミコさんは実家に帰ってお店を開いたのですね」
「未熟者のくせにまたお店開くなんておかいいでしょ?でも、前のような失敗はしたくありません。ですから、創作メニューに力を入れてるんです。これから準備しなくてはならないので失礼します」
「今度、行っていいですか?」
「ええ。いつでもお待ちしています!」
(さ、帰って準備しなくっちゃ!開店時間に間に合わないよ)
と、ユミコは急いで帰宅し、開店準備に取りかかった
(つづく)