あれから”ライラック”では―
「ねぇ、ユミコさん、新しいお店始めたんだって」とタカヨ
「ったく、懲りないなぁ。どうせまた潰れるだろ」
「なんか、評判いいみたいよ。”Three Piece”の失敗は許されないって、本人張り切ってるから」
「ヒロシも失踪して自殺したんだってな。大借金残して、あいつ一人で返せると思ってるのか」
「でも、あの人のお店、行ってみたいな。変わりメニュー多いらしいし」
「これでまた赤字なら、自己破産だな。どこまでやれるか見ものだよ」
「店休日に行ってみましょうよ。マユミちゃんも一緒に」
しばらくして、ミホが仕事を終え、店にやってきた
そして、カウンター席に座った
「兄さん、久しぶり。相変わらずの盛況ぶりね」
「会社は順調なのか?」
「それがね…ここんとこ業績下がってるの。今期初めて赤字になるかも」
「さすがのスゴ腕女社長も行き詰まることあるんだ」
「失礼ね。ところで、ユミコさんたちどうしてるの?今頃借金返済に四苦八苦してるでしょうね」
「ヒロシ、自殺したんだって。ユミコ残して出ていって行方くらましてたら、こんな悲惨な結末を迎えるとは」
「何も知識もないのにお店作るなんて無謀だったもの。当然うまくいかなかったでしょ。仕方ないわよ」とミホは呆れていた
「タカヨから聞いたけど、あいつまた店を始めたんだって」
「あははは…彼女が?まさか~冗談にきまってるのに」
「実家に帰って、自宅の一室をカフェにしたんだって」
「そうなんだ。自宅の一室をカフェにするなんて、なかなか思いつかないけど」
「タカヨったら、一度行ってみたい、なんて言い出すんだもん。”Three Piece”の時みたいにしょぼいメニューだったりして」
「そうよね。また同じことの繰り返しになるかもね。それでまた借金が膨れあがって…どうしようのない人よね」と、ミホはあざ笑った
そこに、別の客が入ってきて、ミホの隣に座った
「この辺に新しいカフェできたんだって。パッと見、普通の家なんだけど、”カフェ”って看板が掲げてあるから、行ってみたのよ。そしたら、創作メニューが結構あって、マスターらしき女の人が一人切り盛りしてるんだ」
「”みんかcafe・はづき”のこと?あ、あれね、マスターの元奥さんが開いたお店なのよ」、とタカヨ
傍で会話を耳にしたミホは
(やっぱそうなんだ…彼女…)と、信じられない表情でリョウを見ていた
「店だけどさ、庭園もあって落ち着くんだ。料理だってすごく凝ってるし行く価値はあるよ」
(ユミコさんって”Three Piece”の時は全くといっていいほど華がなくて、表情も暗かったもの。あれからどれだけ変わったのか。もちろん良い方向として)
「へぇーっ。庭園も7あるんだ。和風カフェか。マスター、行ってみようよ」
「あれ?ミホの奴、固まってるよ」
ミホは傍で彼らの会話を聞いているうちに、表情が固まっていた
(本当なの?もしそうならば、再度同じ失敗は許されないよね、彼女)
そしてあくる日、”ライラック”は店休日のため、リョウ・タカヨ・マユミの三人はユミコの店”みんかcafe・はづき”に行った
「いらっしゃいませ。あら、お久しぶりです。店休日なんですか?」
「うん。休みだよ」
「わぁ~ステキ。家をカフェにするなんて」と、マユミは感動した
「自宅をカフェにするアイデア、よく思いついたな」と、リョウ
「庭園もあるのね。店内もスッキリしていて、なんか癒される~」
「庭園っていっても、小さいですから。何になさいますか?」
彼らはメニュー表を見て決めることにした
(このメニュー表、自分で作ったんだ…彼女、案外器用なんだ。変わりメニューいっぱい並んでる…スイーツだって”Three Piece”のときは全然なかったのに)
”レアチーズケーキ””ブルーベリータルト””レモンパウンドケーキ””さつまいもモンブラン””かぼちゃプリン”などもすべて手作りだ
リョウは”ポークソテー・トマトソース、ライス・スープ付き”
タカヨは”明太子のカルボナーラ”と”オレンジヨーグルト”
マユミは”トーフハンバーグ・パン・スープ付き”を注文した
しばらくして注文した料理が三人の元に運ばれてきた
ユミコは「これもサービスでつけておきます」と、自分で焼いたクッキーを三人にあげた
”かぼちゃとシナモンのクッキー”だ
料理に使われる材料は、彼女の母の身内や近所からもらうのがほとんどだ
かぼちゃなどの野菜もそうだ
そのため、材料費もさほどかかっていないため、安いのが魅力である
「美味し~ユミコさん、こんなものまで作れるようになるとはすごいよ」
「クッキーだって、しつこい甘さじゃなくてあっさりしている。”Three Piece”のときとは想像つかないすげー進歩だよ」
「なんか、ユミコさんイキイキしてるね。今まで見せたことなかったのに」
「彼女も”やれば出来るんだ!”って思ってるかも。あの頃は周りからずいぶん振り回されてたからね。やっと解放されたって、感じかな」
「ごちそうさま~美味しかったよ。また来るね~」、と言いながら三人は店を後にした
(つづく)