電話の声はタカヨからだった
”自殺したんです…倒れてるところを救急車呼んで病院連れていったんだけど、着いた時は…”
(うそ…うそでしょ…”もう帰らない、探さないでくれ”って…まさか自分で命を落としてしまうなんて…)
”今は仕事中なんで、店を閉めてからそちらに向かいます”
「ごめんなさい。私用ができちゃいまして。今日は早めに閉めますので」
「えっ?何かあったのですか?ここの料理食べたかったのに、残念」
「せっかく来てくださったのですから、注文に応じますよ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
そして、閉店―
ユミコはヒロシのいる病院へ向かったが、彼はすでに姉夫婦宅に引き取られていた
彼の実家は、両親を亡くし、住む人が居なくなったため、取り壊された
唯一の兄弟だった姉は嫁ぎ、近くに住んでいる
ユミコは姉宅へ行き、変わり果てた姿になったヒロシと対面した
「ヒロシさん、なぜ私を残して…なぜ死ななきゃならなかったの…そんなの嫌だよ…」
彼女は悔しさと悲しさでむせび泣きした
「ユミコさんですね。ヒロシの姉です。弟には随分迷惑をかけてきました。お店をやめてから生きがいがなくなった。住んでいたアパートも家賃が滞納続きで追い出されてしまい、途方に暮れてたんです。結局お店がうまくいなくて借金重ねたのがすべてでした…」
「お義姉さんはじめまして。ヒロシさんは”俺を探さないでくれ”って置き手紙して出て行ったんです。私もアパートにはいられなくなったので、実家に帰り、自宅の二室を店舗にしたんです。”ヒロシさんの分まで頑張らないと”って、張り切ってた。なのに、こんなことになるなんて…また一緒にしようって思ってたのに…」
「そうなんですか。弟の分まで頑張りたかったのは感心です。前にお店をしていた時の借金を返さなければならないのに、一人で背負うことになるとは大変ですよね」
「お店もオープンしたばかりで、前の店のような失敗は許されないと、どうすればお客さんが集まるか、リピーターができるか、お客さんが喜ぶ料理が作れるか、自分なりに研究してるんです。うまくいけばいいですが…」
ヒロシの葬儀はごく身内だけで行われた
もちろんムツオやミホには知らされていない
だが、タカヨには知らされていた
なぜだろうか
タカヨには三人の姉がいる
そのうち次姉の嫁ぎ先が、ヒロシの姉の夫の実家なのだ
すなわち、次姉の夫はヒロシの姉婿の兄にあたり、遠縁になる
ユミコはヒロシが自殺した理由をタカヨに話そうとしたが、
「ヒロシさんが一人で借金が返せるわけないじゃん。ユミコさんだって責任あるのよ。お店するときにミホさんに援助してもらって、赤字続きでダメになったから、彼女、店から手を引いたのよ。わかるよね?」
「はい。私にも責任があります。あの時は何もわからないままお店開いてスキルアップもせず、メニューの研究や売上向上の努力もしなかった。その苦い経験から、このたび自宅を利用して新しいお店を開いたんです。もう失敗は許されないと、メニューの開発に力を入れています。ヒロシさんの分まで精一杯頑張っていきます」
「ユミコさん、あの頃と比べると前向きに考えるようになったね。お店繁盛すればいいよね。私もいつか来るから、頑張ってね」
「ありがとうございます!必ず借金返します。だからいつでもお店に来てください!お待ちしてます!」
「楽しみね。マスターもマユミちゃんも一緒に連れてくるから」
(タカヨさんに励まされるなんて、初めて…よ~し、必ず繁盛させるぞ!)
(つづく)