やがて実家に帰ったユミコは母・はづきにヒロシのことを話した
「ヒロシさんったら、私を置いてどこか行っちゃったのよ。”もう俺を探さないでくれ”って」
「そうなの。なぜあんな人についていったの。あんたのような娘は結婚には向いてなかったのよ。いつまで苦労ばかりかけるの。私はいつまで生きられるかわからないのに」
「ごめんね。実はね…レストランしていたけど、赤字続きで潰れちゃって、ヒロシさんは借金返すのに困って家出しちゃったし、開店資金援助してくれた人も支援を打ち切られて、私も自分の収入だけではとてもやっていけれないし…これからどうすればいいの、私…」
ユミコはまさしく八方塞がりとなっていた
「この家もいずれはあんたものになる。借金が返せないのなら家を売ればいい。だけど、この家は先祖代々から続いている家だからそう簡単に売ることができない」と母・はづきは家を売ることに抵抗した
彼女の家は代々から続く古い家屋だ
それを手放すとなれば、親族は怒り心頭である
(家を売れば済むことだが、もうミホさんは手を貸してくれないし、自分達で立て直すしかないし…)
「そうだ!」
「何か思いついたの?」
「家を売らないのなら、ここでカフェ開く」
「まさか、あんたにできるわけないでしょ?」
「だって、こんな広い家に空き部屋あると使い道あるかなって。それに庭園もあるから、もってこいかも」
ユミコは自宅の空き部屋を喫茶スペースにすることにした
自分の家をカフェにするのだった
小さいながら庭園もあり、癒し空間にもなる
家中にある、テーブル・椅子も利用、キッチンは喫茶スペースと直結しているため、あまり手を加えずにすんだ
また、得意のイラストで手書きの看板や、メニュー表を作った
”みんかcafe・はづき”
ユミコは母の名前を店名に付けた
店名を付けるとき、最愛の夫の名前をつけようとしたが、語呂合わせが良くないと思ってやめた
(でも、これだけではお客さんが集まらないか…なんか目立たないし…)
メニューも”Three Piece”のころのものと変わらないが、レパートリーを増やし工夫して客に出せるようにするため、試行錯誤を繰り返した
そして、なんとかオープンにこぎつけた
店は軌道に乗るまでは一人で切り盛りしていくつもりである
数日後、ユミコは惣菜屋のパートを辞め、”みんかcafe・はづき”をオープンさせた
が、なかなか客が来なかったが、しばらくしてやっと一人客が入ってきた
最初の客は、ユミコとさほど年の変わらない中年女性だった
「あなたは、ひょっとして”Three Piece”の人?」
女性は一度”Three piece”に食べに来たことがあった
「ええ」
「なぜ、またお店を開いたの?」
「こんどこそ成功したいんです。もう同じ失敗はしたくないですから」
「頑張ってるのね。ここのおすすめってないの?」
「”じゃがいもとチーズのガレット”に”明太子のカルボナーラ””ミートソースグラタン””豆腐ハンバーグ””ひじきサラダ”かな」
「へぇー、”Three Piece”にはなかったメニューばかりですね。でも、カフェなんでしょ?よくそこまで考えつきましたね」
「いえ、まだまだです。もっと増やさないと」
「”ミートソースグラタン”と”ひじきサラダ”頼もうかな。それとコーヒーも付けてね」
「はい、かしこまりました」
ユミコは、”Three Piece”の頃、無気力で適当にありきたりのものを作っていただけに
新しい店にかける情熱は目を見張るものがあった
ランチタイムが近づくにつれ、客も一人二人と増えてきた
彼女一人ではてんてこ舞いだった
(”Three Piece”では暇を持て余したけど、こんなに忙しい思いしたのは初めて)
それでも、彼女は客の注文した料理を要領よく作っている
(ヒロシさんの分まで頑張らないと)
やがて、”みんかcafe・はづき”ほ評判が口コミで広がっていく
「ありがとうございました!」
ユミコの表情は笑顔で満ち溢れていた
こんな顔を見るのはいつ以来だったのか
その時、彼女のケータイの着信音が鳴った
”ユミコさん、大変です…”
(つづく)