すると、ミホは、ムツオに、


「さっき誰か居たんじゃない?お泊りしに来てたの?」


「仕事仲間だよ。家に帰ったばかりなんだ」


「ひょっとして?」ミホは疑いの目でムツオを見つめていた


「ヒロシさんじゃないでしょ?」


「違うよ」


「それならいいけど」


(あ~バレずにすんだ。もしヒロシならミホは三行半を突きつけられる。あいつはもうヒロシには手を貸さない、って言ってたし、”まだあんなろくでなしと付き合ってるの?いい加減に付き合いやめなよ”って言われるに決まってる)


「ヒロシさんもユミコさんもあれだけ借金抱えているのに危機感はないのかしら」


「ああ、何とかなるさ。今頃血眼になって職探してるのだろうけど、年も年だから、かなり厳しいんじゃない?ユミちゃんは前に勤めていた惣菜屋で働いてるみたいだが生活費稼ぐのがやっとだもの。本人もガッツリ稼ぎたいって言ってるけどね。こちらも厳しいよ」


「彼女、性格的に向いている職業なんてなさそう」


「彼女は客商売が不向きなんだよ。それなのに客商売をすることになったのか。自分の不向きの世界にあえて挑戦したかったかも。結局、失敗に終わった。これで、二度と客商売はしたくないって」


「どうせ無理だったのに、自分たちのお店を持ちたかったという、あさはかな考えがいけなかったのよ。頭冷やして反省してると思うわ」


ヒロシは帰宅後、仕事先を探しにあちこち歩き回った


しかい、思うように見つからない


(定年間近の年齢には厳しいよ…仮に見つかっても安定した収入が得られそうでないし…)


彼は家賃三万円のアパートにユミコを二人暮らし


家賃数ヶ月分滞納しているため、大家から退居するように言われている


(このアパートも居られなくなるし、これからどう生活していくか。何もかもが嫌になってきた。もうこの世から消えてなくなりたい)


ユミコがパート先から帰宅、キッチンに行くと、テーブルにメモが置いてあったので読んでみると、


”もう生きていくのが嫌になった。皆に迷惑ばかりかけてすまない。しばらく帰らないつもりだ。いや、もう帰らないと思う。だから俺を探さないでくれ。ごめんよ…”


ヒロシが書き残したメモだった


(なぜ…なぜなの…私を残して出て行くなんて…お願い…帰ってきて…)


ユミコはそのメモを読み、自分も死にたいと思った


さらに、キッチン横の自分たとの部屋に行き、ソファの上に置き手紙があった


(また…)


”ユミコよ。お前と過ごした日々は一生忘れない。自分たちの店を作るという夢を果たしたものの、成功しなかった。その代償はあまりにも大きい”


(そんなの絶対イヤ…)


”どう償っていくか、俺も自分なりに考えてきたが、その答えは見えてきた。だから電話もかけてくるな。家の電話も、俺のケータイも解約した。これからお前一人で生きていくのは酷だけど、俺の代わりに一生懸命償ってくれ。今までありがとうな”


(ひどい…ひどすぎる…私一人じゃ償っていけない…)


ユミコは泣きながら、彼の手紙を読んでいた


ヒロシとはあれ以来音信不通となり、帰ってくることはなかった


ヒロシが自分のアパートに帰らなくなって数週間が経った


ユミコもパートだけでは生活するのがやっとなので、ダブルワークをしていかないと、借金が返せないので深夜のアルバイトがないか、求人誌で探してみた


(深夜なら時給がいいからね…)


彼女は心労がたたってやつれていた


それでも、ヒロシの分まで頑張りたいと思っていた


しかし、彼女一人で多額の借金が返せるのか、頭の中はそのことでいっぱいだった


(そのうち私もここに居られなくなるし、実家に帰って、母に相談したいけど…)


実家は、歩いて15分のところにある


父は10年前に他界しており、母は80過ぎと高齢であるが、家のことは一応自分でしている


ユミコは一人娘で、彼女は跡取りだ


母がいずれ寝たきりになり、介護が必要になってくるため、彼女は自分の荷物をまとめて実家に帰る決心をした




(つづく)