”ライラック”では、相変わらず客足が絶えず活気にあふれていた
ミホが仕事中抜け出して店に来た
「ねぇ、聞いた?”Three Piece”閉店したのよ」
「ああ。知ってるよ。開店休業状態だったからな。新メニュー開発に行き詰まったみたい」と、リョウ
「だいいち、あんな一等地にお店開くなんておかしいでしょ?あの夫婦、無謀なんだから。たまたま空き店舗があったから、そこで決めてたの。”必ず成功してみせる”って、私に約束したからそれでOKしたんだけどね…」
タカヨも、「私もどうせあの店はうまくいかないって思っていたから、案の定そうなっちゃったのも、仕方ないよね」
「自業自得かもね。そう言っておきながら、店自体のスキルアップもせず、店員の教育もできていなかったんだから、あれじゃせっかく来てくれたお客さんも逃げてしまうわよ。リピーター確保したいのなら、人任せにせず、自分たちで努力しないと」
「所詮、ユミコには、そんな能力もないくせにするのが間違ってたんだ。ミホの言う通りだよ」
「だから、私は”Three Piece”には手を引いたの。彼らがなんとかしてくれるわ。どうぞ、ご勝手に!ですよ」
ミホは、ナツメ夫妻に愛想がつき、二度と関わりたくないと決めた
「ここはスイーツってあるんですか?」
「ええ。おすすめは”フレンチトーストアップルシナモン風味”です。これはお家でも簡単に作れますよ」と、タカヨ
「メインのおすすめの一品は”豚肉のソテー・パイナップルソースかけ”です。こちらはライスとスープ、それに付け合せとしてほうれん草の和え物が付いています」
「じゃあ、これらお願いするわ」
ミホはこの二品を注文した
料理ができあがると、彼女は”美味しそう!”と、目の色を変えて喜んだ
「普通の料理も、アイデア次第で客料理として出せるのに、あの人たちはしなかった。というかできなかった。彼らにはそういう才能がなかったのよ」
”ライラック”成功の理由として、アイデアメニューがたくさんある、ということだ
それに、店の雰囲気、接客態度
”炎のハンバーグ”にせよ、ちょっとのアイデアとひと手間かけるだけでもお客さんに出せる
リョウとタカヨは、何度も試行錯誤を繰り返し、やっとたどりついた
”ベーコンと明太子のパスタ”や”鶏の唐揚げ・きのこあんかけ”などの料理を思い浮かんだ
アイデア、といっても某料理サイトのレシピをそのままパクったのではなく、自分なりにアレンジしたものばかりだ
「お店が繁盛する理由がわかってきたわ。これからも頑張ってくださいね」
「ありがとう、ミホさん」
「じゃ、私は仕事に戻るから」
一方、ヒロシとユミコは
”Three Piece”を閉めてから数日が経った
「もう店は懲りたよ。結局、店をやっていく知識もわからず、従業員教育もできてなかったから、潰れて当然の結果だったよ」
ヒロシは、多額の借金を抱えたまま、新たな事業を企てていた
だが、事業を始めるにせよ、またお金を借りなければならない
ミホにも頼めない
「普通の会社員になるしかないな…」
その時、思いついたのが、ミホの会社の従業員として雇ってもらうことだ
(無理かもしれないが、当たって砕けろ!だ)
ヒロシはミホの会社に電話をいれた
”はい、再建屋です”
”もしもし、おたくの会社、求人ありますか?”
”ありませんね。どなた様でしょうか”
”私は、そちらの会社にお世話になったナツメと申します。社長とは顔見知りです。是非とも採用してほしいのですが…”
”さっきも言いましたが、求人は募集していません”と、あっさり断られた
(やっぱり無理だったか…)
ヒロシは60が近づいていた
普通なら、定年と呼ばれる年代、職探しは厳しいものだ
また、ユミコは以前パートとして働いていた惣菜屋でもう一度働きたいと言い出した
彼女はまたそこで働くことになった
二人は”ライラック”のような店を目指していたのに、メニューの開発や研究もしていなかった
どんどん差を開けられ、赤字が続いて苦しくなってきた
これでは、さすがのミホも、”再建屋”といえど、サジを投げてしまうほどだった
(つづく)