一方、”Three Piece”では―
新メニューの開発に明け暮れていた
ヒロシは好物のカツ丼をメニューに取り入れたいと思っていた
だが、普通のカツ丼では物足りない
そこで、アイデアが必要になってくる
「カツ丼といっても、なにかプラスすれば変わり映えしてお客さんも喜んでくれるんじゃないか?」
「レストランにカツ丼、想像つかないけど…」
「だから、普通のカツ丼を出すんじゃなくて」
二人はレストランに出せるカツ丼を考えていた
これまで考えていたメニューも、結局”案”で終わってしまった
(まずいな…アイデア凝らしたメニューが思いつかない…)
ここまでくると、店も追い詰められてしまい、店じまいすることも考えるようになった
(せっかく店作りに協力してくれたミホさんに申し訳ない。なんていったらいいのか…)
二人はミホに感謝の意を伝えたいのに、これではいいのだろうか
前に進まなければ!と、気持ちを切り替えることにした
「あ、そういえば、”ライラック”の名物って”炎のハンバーグ”だったよね?あれを真似たらどうかな?」
「バカ!よそのメニューをパクってどうするんだ!だいいち、”炎をまとったカツ丼”なんて食べれるわけ無いだろ?」
カツ丼をアレンジしたメニューが思いつかない
その時だった
「カツ丼をメインにしたお弁当作りましょうよ」
「冗談言うなよ。うちは弁当屋じゃないんだぞ?ま、俺はカツ丼が好きだからな」
「だからカツ丼にいろんなおかずを盛り合わせたのを」
「カツ丼に合うおかずって何だよ?カツ自体おかずだろ?」
「カツとご飯は別々にして他にコロッケやハンバーグ、唐揚げとか」
「めっちゃカロリー高そうだな。それにバランスが悪い。ガッツリ食べたい人にはいいけど、ヘルシーにした方がいいんじゃないか?」
「ヘルシーね…野菜を多くすればいいよね。そうすればバランスも取れるから」
「弁当にするのなら、定食にすればよくね?」
「定食なんて、どこの食堂でもあるんじゃないの?」
そして、考えついたのが、カツとご飯に分け、サラダ・汁物・フルーツやデザートを付けた
「でも、微妙だな…客に出せるメニューじゃない」
やはり、これも”案”で終わるのか
二人は新メニューに行き詰まり当分店を休業することにした
すると、店に電話がかかってきた
「どうしたのよ?!お店やめちゃうの?」ミホからだった
「当分休業することにしたよ。客も来ないし、新メニューも決まらないし、ミホさんには申し訳ない。すまない…」
「お店開きたい、って言ったの、あなたたちでしょ?せっかく私が資金援助したのに、なぜこのようなことになったの?ほんと、情けない!」
ミホはナツメ夫妻の不甲斐なさに憤りを感じていた
ヒロシは泣きながら、
「店を開くのが自分の夢だったんだ。それを実現してくれたのはミホさんのおかげだし感謝している。なのに、期待を裏切ってしまうなんて…もうこれ以上店を続けてくのは無理だよ…」
「もういいわ。二度とこのお店には手を貸さないから。たとえ潰れて借金だけが残ったとしても、自己責任として、あなたたちで処理しなさいね」
「それは承知している。自分たちのせいでミホさんに迷惑かけてきた。ごめん…」
「はっきり言ってあなたたちにお店をさせたことが間違っていたわ。旦那から頼まれて、引き受けて。なんて私もバカだったんだろ…」
ミホはとうとう店の援助を打ち切った
そして、”Three Piece”は再開のメドが立たずに閉店を余儀なくされることになった
開店してわずか4ヶ月だった
残ったのは借金のみだった
(ミホさんに返さなければならないのか…)二人は途方に暮れた
(つづく)