"ライラック”では、閉店時間が近づいてきても、客足途切れることなく大盛況だった


マユミを早めに帰宅させ、リョウとタカヨは休むことなく大忙しだ


すると、


「こんばんは~マユミちゃん帰っちゃったんだ」来店したのはミホだった


「”Three Piece”の評判、どうも良くないみたいだね。今日、早めにお店閉めちゃったみたいよ」


(やっぱりか…)リョウは他人事でもないのに、落胆していた


(あいつらには店など無理に決まってるだろうに…)


「どうせ、ヒマだったんだろ」


「そうかもね」


ミホはどうも店の様子が気になって何度も足を運んだが、全く改善されてないことにガッカリした


(なんとかしかくては…)


「でも、そんなにあの店が気になるのなら、ほっときなよ。あいつらも頭冷やしてるだろうから、なんとかなるんじゃないかな」


「うん。あの人たちで、どこまでできるか、私の出番はもうないと思って。私も自分の仕事があるし、そこまで手が回らないもの」


ミホは”Three Piece”については、黙って見守っていこうと決心した


(これで自分の仕事に集中できる…)


「できるとこまでやってみて、それでダメなら、お前の手を借りに来るだろうし」


「そうかもね。あ、お腹すいちゃった。ここのおすすめって、何?」


「”炎のハンバーグ”だよ。ライス・サラダもセットになってるんだ」


「へぇー、ステーキが炎に包まれてるのは見たことあるけど、それのハンバーグ版ね。それ頼もうかな」


しばらくして、「はい、お待ちどうさまでした」と、ハンバーグが炎に包まれてミホの前に出された


彼女は一口食べて、


「美味しい!ハンバーグも目先を変えるだけで豪華に見えますよね!いいアイデア!」


「”Three Piece”もあんな工夫があればな」


「なんていうのかな。工夫が足りないのよ。手抜きメニューばかりだとせっかく食べに来てくれるお客さんに失礼じゃない」


「料理はともかく、店内の雰囲気も最悪だし、接客態度もなってなかったよ」


二人はしばらく会話を続けた


「マユミちゃん、すっかり看板娘になってるよ」とリョウが言うと、


「”看板娘”だなんて、れっきとした奥さんよ」とミホは笑った


キッチン奥に居たタカヨも「安心するよね。彼女のおかげで助かるよ」とマユミを信頼しきっている


「美味しかったよ。ありがとう、また来るね」と言いながら、ミホは”ライラック”を出た


数日後、”ライラック”は店休日だった


「ところでさー、ヒロシさんとユミコさんが出会ったきっかけって何よ?」とタカヨ「二人のどこに接点があるのかわからないよ。ミホさんと何か関係があるのかな」


「これが、またややこしいんだな。ミホ離婚して子連れの男と再婚したんだけど、その子供がマユミちゃんだってさ。その男とユミコと再婚したヒロシが元いた職場の先輩後輩にあたるらしい。ヒロシはその男といまだ付き合いがあってさ、ヒロシは自分の店を持ちたいって言ってたんだけど、そいつは反対したんだよ。これはマユミちゃんから聞いた話だけど」


「ほんとややこしい~ミホさんとマユミちゃんは血のつながっていない親子なんだ。ミホさんも自分の子供連れてきてるんでしょ?仲良いの?」


「この間、ミホの元旦那が店に来たんだけど、子供同士は仲良くないって。二人子供いて一人はニートでずっと部屋に引きこもってるよ。なのに、ミホはあいつには甘いんだよな」


ヒロシとユミコの出会いは、彼女がムツオすなわち、ミホの夫が働いていた飲み屋に客として入ってきた


そこに偶然にもかつて職場の後輩だったヒロシは彼女の隣に座った


そのとき、ヒロシもユミコも離婚しており、独身生活を満喫していた


ムツオは冷やかし半分で、「お似合いですね」と一言いわれ、


ヒロシは”冗談じゃない!”とユミコのような女性はタイプじゃなかったため、”嫌味じゃないか”と思っていたが、バツイチ同士なのか、意気投合するようになり、やがて恋愛関係まで発展し、ついに再婚した


「飲み屋って、あいつ飲めないくせに」


「そうよね。ユミコさんお酒全然ダメなのに。なんで飲めるようになったのかな」


「ヒロシさんのおかげだろ」


「でも、どっちが惚れたのかしら。ユミコさんは恋愛体質じゃないから、一方的にヒロシさんからプロポーズされたかも」


「まさか、ユミコに惚れる男が現れるなんて。だいいち、あいつ、俺と夫婦だった時も、俺から結婚言い出したし」


「彼女、見た目も性格も地味なのか、恋愛には疎くて、誰か声かけてくれてら即OKみたいな。だから、交際期間もあまりなかったんじゃない?」


「そうだな。付き合い始めて三ヶ月だったかな?その間2,3回しか会ってなかったし」


「付き合いが浅いとお互いの本性は見えないものね」


「あー、これが失敗だったんだ。家事もまともにできなくてだらしない女だったとは」


「結婚って、急ぐものかしら?ところで、ミホさんが離婚するなんて思ってなかったでしょ?」


「ああ。あいつは自慢じゃないが、末っ子なのに兄妹の中では一番しっかりしていたな。だから結婚生活も上手くいってるかと思ってたら、旦那が浮気と借金だろ?彼女カンカンに怒ってたよ。仕事帰りにパチンコ行っては戦利金足りなくなったらミホから貰っていたな。彼女はお金にうるさいから絶対あげなかったけどね。それでとうとうサラ金にまで手を出してしまって。浮気は意外だったな。失礼だけど、あいつは容姿は若い時から良くないから」


「あら、ミホさんそんなに不細工だっけ?性格が顔に出ているから?」


「あいつは、芯はしっかりしているけど、気がキツいからな。旦那が出世したのは”私のおかげで出世できたのよ”、って言ってたし。マイホーム手に入れたのも、”私のおかげ”だし、それで会社を作ろうと、自分の貯金を”出資”したわけ」


「へぇー、すごいね、彼女。会社設立できるほどお金貯めてたんだ。で、その会社うまくいってるの?」


「まぁ順調かな。従業員も20人ほどいてオファーもよく来るよ。旦那が万年平社員だった時に、苦しい家計の中子育てしながらコツコツ貯金してきたんだ。子供が大きくなると彼女も働き出し、その甲斐あって一戸建て建てられたし、旦那も一気に課長に昇進だからスゲー出世だよ。そのうち社長になるんじゃないかと思ってたら、”事件”が起きちゃったんだ」





(つづく)