閉店時間となり、ユミコは売上の計算ををしていた
そしてミホに電話をかけた
「こんばんは。ただいま終わりました」
「ところで今日の売り上げはどうだったの?」
「今計算しているところだけど、あまりよくないみたいで・・・」
「そんな弱々しい、自信のない言い様じゃ、お店は長く続かないよ。せっかく私たちが作った店なんだからちゃんとやってもらわないと」
”私たち”とミホが言うように、店名”Three Piece”はヒロシ、ユミコ、そしてミホの三人で作った店だ
なぜナツキ夫妻とミホといったいどういうつながりがあるのだろうか
なぜミホが開店資金を援助をしてくれたのだろうか
ユミコはリョウの前妻、ミホはリョウの妹
ヒロシはユミコと再婚し、ミホの現夫・ムツオとは元職場の先輩後輩という関係
ヒロシが店をオープンさせるためにかつての職場の先輩だったムツオに相談をもちかけた
すると、今でもヒロシと付き合いのあるムツオは妻・ミホに開店資金の協力を求めた
彼女は「できるだけのことは協力する」と言ってくれてなんとか開店にこぎつけることができた
店名は三人力を合わせながら店を発展しよう、との願いが込められている
だが、今のような店舗運営はとても店名のイメージとはほど遠い
とにかく店員や店舗のスキルアップさせないと潰れるのは時間の問題だ、せっかく三人が作った店を潰したくない!と、ミホは店の立て直しをすすめた
「なぜこの店名にしたのかわかりますか?あなたたちはまだその意味がわかってないみたいですね」
「…はい。少しでも売上上げるように努力しているつもりですが…なかなかお客さんが来なくて…」ユミコは弱音を吐いていた
「”つもり”はないでしょ?そんなのでお店が儲かると思ってるの?だいたいあなた自身、客商売に向いてないのになぜお店を開こうと思ってたの?あなたを含めて店員のスキルをアップさせないとやばいですよ。それに、こんな場所でこんな状況なら赤字が膨らむ一方ですよ」
「わかりました。頑張ります」
「私はまたいつかこの店に来るから、少しは改善できているようにね」
と、ミホはユミコらに厳しい言葉を浴びせた
それは、自分たちが作った店への愛情の表れなのかもしれない
(また来るなんて…無理だよ…)
”ライラック”では、相変わらずランチタイムになると客待ちができていた
バタバタ忙しいにもかかわらず、マユミをはじめスタッフたちは落ち着いて接客をしていた
タカヨは「”Three Piece”だけどさ、あんな場所に作るなんてもったいないよ。メニューだってどこにもあるようなものばかりだし」
「そうだよな。料理そのものは悪くないけど、メニュー増やさないとまずいよな。ミホも言ってたけど店員教育ができてないよ。なんか暗いというか活気ないよ」
「うん。店内も殺風景だし、パッとしてなくて華やかさがないわ。そんな店じゃ誰も行きたくないよね」
「ミホ、まだそこの料理食べてなかったのかな?食べてみないと、雰囲気だけでは店の価値がわからないし」
「どんなに美味しい料理でも雰囲気悪かったら美味しく感じないでしょ?」
マスター夫妻の会話が進んでいるうちに閉店時間になってきた
「お疲れ様でした~」とマユミは子供を迎えに姉のところへ行った
(つづく)