するとリョウは重い口を開いた
「あ、言っておくの忘れてたけど、先日来ていた男の人、俺の妹の旦那なんだ」
「えー!?知らなかったよ。どうして黙ってたの?」
「いつか言おうと思ってたけどね。義理の人間として見るより客の一人として見ていたからな」
「マスター、妹居るのは知ってたけど、まさかあの人が旦那さんだとは」
「でも私のお母さんはマスターの妹さんじゃないんです」と、マユミ
「お父さんもお母さんもバツ一同士なんです。彼女は二人の子供を連れてました。私の本当のお母さんは私と姉を置いて出ていっちゃったんです」
しばらくしてリョウの携帯の音が鳴った
妹のミホからだった
「兄さん久しぶり。今さっき"ライラック"行ってきたけど休みなんだってね。どこにいるの?」
「"Three Piece"だよ。ヨメとこの間入ってきたスタッフの人と来てるんだ」
「へぇー、そうなんだ」
「ところで仕事中?」
「ううん、これからそっち行こうかと思って。店の様子も気になってたし」
「じゃあ、待ってるよ」約30分後、ミホが店にやってきた
「こんにちは~。あら、マユミちゃんもいるんだ」
彼女は四人がけのテーブルに、三人がいる空いた席に座った
(なにこの店…さっぱりじゃない。店員のスキルアップさせないとじきぬつぶれちゃうわ…)
「ランチタイムだというのに、ガラガラね」
「そうよね。場所がいいだけにもったいないよね」
「店員教育や店舗向上する必要あるわね。なんか活気がなくてジメジメした感じ。お客さん集まらなくて当然だと思うわ」
タカヨも、「それに、メニュー少ないし、まだ始めたばかりとはいえ、これはちょっとね…」
ミホは店の現状を知ると、顔を歪めた
店の立て直しをする必要があると三人に伝えた
そして仕事中のユミコを呼び、
「ちょっと、あとで話があるからお店閉めたあと私に連絡してくれない?」
ユミコは、「はい…」と緊張のあまり声が出なかった
(このままだとお店がやっていけるわけがない)と、ミホはかなり不満だった
ミホはリョウの妹だ
リョウとは10歳差だが、四人兄妹の末っ子で男兄弟にもまれていたためか、負けず嫌いだ
小太りだが、明るく白黒ハッキリしていないと気がすまない性格、いつもニコニコ愛嬌があり、彼女を慕う友人も多い
両親は、ミホが待望の女の子だったため可愛がっていた
地元の高校を卒業してマッサージ師に なるために専門学校に通ったものの、卒業後まもなく結婚、二人の子供をもうけた
夫だったマサミは、月給15万の平社員で、彼女は厳しい家計の中育ち盛りの子供がいるにも関わらずうまくやりくりして毎月貯金をしてきた
マイホームを建てるのが夢で、そのため節約をし、本人もパート勤めをしながらコツコツ貯めていき、ようやく念願のマイホームを建てることができた
万年平社員だったろう、マサミは課長に昇進し、給料・ボーナスも大幅アップ、家計に余裕が出てきた
その陰にはミホの力が大きいと、彼は話していた
いわゆる、”あげまん”である
新婚時代は亭主関白だったが、さすがの夫も彼女には頭が上がらなくなった
完全に立場が逆転していた
彼女はその経験を生かそうと、会社を作ることを考えていた
そして、会社を設立、潰れかけているお店を立て直すのが主な仕事だ
その名もズバリ、”再建屋”だ
今や従業員約20人抱えるスゴ腕社長だ
業績も右肩上がりで、彼女のおかげでお店を立て直すことができた、と喜びの声が続々あがっている
その後も潰れかけた店を再建し、彼女は東奔西走していた
ところが、マサミのギャンブル好きが災いして、借金があることや、浮気も発覚、それらがミホに気づき、ついに彼女はマイホームを残し、子供を連れて離婚してしまった
あれから再婚相手となるムツオとミホとの出会いは彼女が離婚してお互いバツイチ同士だった二人はやがて意気投合するように
ムツオはミホのサバサバした性格に惚れ込んでプロポーズをした
彼の娘、マユミは結婚し、夫と子供そしてミホの連れ子二人と同居している
(つづく)