「はい…」
「あの子は、私の以前勤めていた職場の先輩の娘なんです。先輩は脱サラして焼肉屋をしていたのだが、赤字続きで潰れてしまってね…」
「なぜ、彼女ばかりジロジロ見ていたのか、それでわかりました」
マユミの夫は焼肉チェーン店の店長をしている
「マユミちゃんの旦那さん、店長してるんですね」
「先輩は二人の娘さんがそれぞれ独立して、奥さんと離婚したあと、子持ちの女性と再婚したそうです」
「店が潰れちゃうと家庭に響きますよね」
そして、男は注文していた料理を食べ、店をあとにした
「ありがとう。また来るよ」
男の目当てはやはりマユミなのか…
「あ、私はこういう者です」男は自分の名刺をタカヨに渡した
”Restraurant Three Piece ナツキ ヒロシ XXX-XXXX-XXXX”
「何かあったときは私に相談しにきてください」
タカヨは面識のない男から、このような話を聞くと、きっと何か関係があるのではないか複雑な思いがしてきたのだ
(この人、私全然知らないのに、どうしてなれなれしいのか。リョウちゃんの親戚?マユミちゃんの親戚?)
すると、マユミが、
「タカヨさん、さっきの人は私のお父さんの元部下だったんです。彼は駅前でレストランを開いたばかりで、あちこち食べに行ってメニューの参考をさせてもらっているんです」
「そういえば、昨日、マユミちゃん帰った後、ウチの店にマスターの元奥さんが来たんだけど、この人駅前でお店開いたんだって。しかもレストランとか。名前はたしか、”Three Piece”だっけ?」
「なんか、バンドみたいですね。オープンしたばかりのレストランって、ここしかないですよね?」
とマユミ
「名刺貰ったのを見ると、ナツキさん、って言うんだけど、彼。たしか、彼女は”ナツキユミコ”って言ってたわ。そのレストラン、この二人が作ったのは間違いないわ」
タカヨはどうやら、ナツキとユミコとの接点があるのがわかったようだ
(再婚された相手とは、ユミコさんだったんじゃ…)
「ナツキさんっていうんですか?わたし、あの人全然面識ないのに。お父さんの以前いた職場の先輩だったことしかわからなくて」
「でも、不思議だよね、あの二人。レストランしているなんて、ひょっとして、バックがついているのかな?」
「バックって?お金いっぱい持っている人?」
「ま、そういうこと。店を作るために必要なお金をポーンと出してくれる人。だって、彼女一円も貯金ないのにできるわけないじゃない」
「彼女、顔見知りなんですか?」
「うん。マスターの元奥さんだったもの。失礼な言い方だけど、ネクラで家事もロクにできなかったんだから、さすがのマスターも愛想が尽きちゃってね。これで25年間持ったものよね」
「25年も?よく辛抱されましたね!」
「あ、明後日店休だから、彼女のお店行ってみましょうよ」
「私も行ってみたいです!楽しみです!」
二人はユミコのレストランに行くのをワクワクしていた
当日―
”ライラックは”店休日のため、リョウ夫妻、マユミとの三人は、駅前にオープンしたばかりのレストラン”Three Piece"に行った
店名の「Three Piece」とは、
ナツキ、ユミコ、そして、もう一人…から名付けられた
”もう一人”が気になるところだが、
「ここね」
三人は店に入った
「案外空いているね」
駅前という好立地のわりに、店内は閑古鳥が鳴いていた
「いらっしゃいませ」と、ウェイトレスと思われる若い娘が注文を聞きに来た
「お決まりでしたら、このボタン押してください」
メニュー表を見ても、レストランと思えないほど少ない
(なんか、喫茶店っぽいな…)
タカヨはさっきの女の子を呼び、ミックスサンドを三つ注文した
「はい、かしこまりました」
店員の女の子は、可愛いが、どことなく無愛想な感じだった
(あれじゃ、潰れるのも時間の問題だな…)
(つづく)