※"くもりのち晴れるか?"の続編です
リョウとタカヨはカフェ"ライラック"をオープンさせ早一カ月が過ぎた
店も順風満帆までとはいかないものの、そこそこの繁盛ぶりだった
リョウが作る料理も、"マンデービーチ"で修業したおかげか、かなりの腕前になっていた
タカヨは、いずれは彼にすべてを任せるつもりでいるようだ
"ライラック"は、二人の念願が叶ってできたお店だ
見た目はペンション風の隠れ家的で目立たないが、店内は静かな音楽が流れ、アンティークなインテリアで飾られ落ち着いた雰囲気である
店の口コミもかなり広まってきて、タウン誌にも紹介される有名店になってきた
ランチタイムになると行列ができるほどである
「"マスター"って呼んでいいかな?」タカヨが言うと
「まだ、そう呼ばれるほどの腕前ではないけどな」
「十分あるよ。ま、私のおかげでもあるけどね」
「そうかなぁ。じゃ呼んでいいよ」
リョウも自信がついてきたとはいえ、忙しくなるにつれ二人で店を切り盛りしていくのは大変と思い、新たに店員を増やすことにした
(こうも忙しいと、さすがに”何とかの手も借りたい”って思うよ)
二人はさっそく”店多忙につき、スタッフ一名急募”と書いた紙を、入り口のドアに貼った
(これで来てくれるのだろうか…)
すると、店員希望する人が店にやってきた
「あのー、このお店で働きたいのですが…」
店に来たのは、幼子を連れた若いお母さんだった
彼女の名前はカミオマユミ、小柄で茶髪でアップにまとめてあり、パッと見、高校生か?思ったほどだった
「でも、お子さん手がかかるでしょ?」
「はい。保育園に預けるつもりでいます」
「お祖父さんとかお祖母さんとか、見てくれる人はいないのですか?」
「主人は両親を子供の頃に亡くしています。私は両親は居るのですが、なにしろ複雑なもので…だから誰も見てくれる人はいません」
「それでも働ける自信はあるのですか?」
「はい。高校生の頃にファミレスでアルバイトをしていましたから、接客には自信があります」
「じゃぁ、カミオさん、明日からお願いしますね」
「ありがとうございます。こちらこそ宜しくお願いします」
ライラックに新たな”即戦力”が加わり、三人体制になった
「よーし、これで目標のカフェに一歩近づいてきたぞ」
翌日―
「おはようございます」マユミが元気なはずんだ声で店に来た
「あら、おはよう。子供保育園なの?」
「ううん、預けたいんだけど、空いているところかなくて、お姉さんに見てもらってるの」
「そうなんだ。保育園、すぐには預けてくれないし、それに空いてる所がないとは…」
「しばらくはお姉さんに面倒を見てもらってくれてるから助かってるけど…」
「そうね。まだ見てくれる人いるからありがたいよね」
「おっ、マユミちゃん、来ていたんだ。おはよう」
「おはようございます、マスター」
「そろそろ開店の時間だな」
タカヨは開店の準備に追われてコーヒーをたてたりしていた
そして、開店の時間がやってきた
「いらっしゃいませ」マユミの明るくはつらつとした声が店内に響く
「この娘、新入りか。可愛いじゃん。マスター、浮気するんじゃないか?」
「なかなかでしょ?マスターすっかり気に入ってるみたいよ。こう見えても、人妻だよ。子供も居るし」
「えーーーっ?!見えないよ。高校生かと思ったよ」
「でしょ?JK軍団に混じっても違和感ないもの」
「こりゃ、ますます繁盛するな」
マユミの接客は学生時代にバイトの経験もあってか、慣れており初めての人にありがちなぎこちなさはなかった
(つづく)