いずれは、式を挙げてドレス姿を見せてあげたい、というのが、百代の夢なのだ
それまでに、一生懸命モデルの仕事をしないと!
「モモちゃん、明後日撮影なんだけど、smile me6月号はウエディングドレス特集なんだって」と、松倉から連絡があった
百代は、”若い娘ならでこそうなんだけど、私みたいな年増ができろのか”と、断ろうとしたが、
「モモちゃんだけがモデルじゃないじ、いろんな年代の方がされているのだから、気にしなくてもいいですよ」
彼の一言で、百代の心を動かした
撮影当日、彼女は松倉と一緒に現場に到着―
彼女はカメラマンの指示にしたがい、次々とポーズを決めてみせた
「OKで~す。お疲れ様~」
「モモちゃん、最高に似合ってましたよ。いつか式を挙げて本物のウエディングドレスを着ましょうよ」
「そうね。なんだか花嫁気分になっちゃった」と、百代は恥ずかしそううに笑った
それまで、松倉から”式を挙げようか”って話は聞いてなかったが、
スタッフの希望で、「当日は仕事で参加できなくて残念だけど、是非挙げてください!」との声が上がった
すると、松倉は、「いいですよ」と言った
(やったぁ~。憧れのドレス着て、ダーリンとツーショットだなんて、夢みたい…)
挙式は二週間後に決まった
百代はさっそく両親、紀夫、そして周吾に報告した
「私たち、式を挙げることになったの。紀夫や周吾にも言っておいたから」
「本当か?!」父・行男は目を白黒させながら驚いた
「うん。身内だけのささやかなものにしておこうかと」。弟たちは出席できるって言ってたし」
「新婚旅行は行かないのか?」
「行かないよ。だって、仕事が入ってるんだもん」
いよいよ挙式当日―
百代の両親、出張から帰ってきた紀夫はっ二人の子供と、周吾は千聡と子供連れで出席
母親がガンと闘病しながら、出産した元起は、伝い歩きができるまで大きくなっていた
「歩くようになると、目が離せなくて」千聡は、子育ての大変さを痛感した
今のところ、ガンの再発や転移の心配はなく、ホッとしている
また、紀夫の妻、さおりは三人目の妊娠中、出産を来月に控えているため、出席できなかった
一方、松倉は、一人っ子で、父は他界し母だけが出席した
そして、新郎新婦の登場―
「わぁ~ステキ。お義姉さんすごく似合ってる」と、千聡は感動した
「姉さん、今までで、一番輝いてるよ」と、弟二人も感動
百代は嬉しさのあまり、涙があふれてきた
(今日は最高に素晴らしい日…これは夢じゃなかったんだ…)
両親も娘の晴れ姿に目から涙がこぼれてきた
「最高の親孝行ができてよかったね」
「百代にはもったいない人だな。どうか、娘を大事にしてくれよ…」
松倉も、「彼女をずっと支えていきます」
彼は、結婚指輪を用意していたのだった
指輪交換の後、百代は両親に感謝の手紙を読んだ
”お父さん、お母さん、40年間私を大切に育ててくださってありがとうございました。思えば、40年の人生を振り返って家族と過ごしたたくさんの思い出ができました。また、困らせたり泣かしたりして、ずいぶん苦労かけてきました。それでも、私を温かく見守って下さり、感謝の気持ちで一杯です。私たちは貴方たちのような幸せな家庭を築いていきます。最後に、お父さん、お母さん、嫁いでも茗荷家の娘として忘れないでください。そして、いつまでも仲良く、長生きをしてください。本日はご多忙のところ、私たちの挙式に来ていただきありがとうございました”
(泣かせるな…こちらこそありがとうよ…どうか幸せにな…)
行男はめったに人前で涙を見せることはなかったが、この日は大粒の涙を流していた
(つづく)