そして、周吾夫妻―


千聡のお腹は日増しに大きくなり、臨月を迎えていた


お腹の赤ちゃんは順調に成長している


ただ、子宮が三分の一しかないため、母体にも胎児にも負担がかからないよう、予定日より早く出産することを勧められている


出産用品も準備しており、いつでも臨めるようにしている


「いたたた…」


今までなかった激しい痛み、どうやら陣痛がきたようだ


千聡はタクシーを呼び、着替えを持って病院に駆けつけた


すぐに分娩室に入るよう、彼女は分娩台に乗った


約3時間後―


帝王切開によって、元気な男の子を出産した


小さめながら、「おぎゃあー」と、元気な産声を聞いたとたん、千聡は安心した


(こんにちは、天使ちゃん。よかった~、無事に生まれてきて)


しばらくして、周吾も仕事を早退して病院に駆けつけ、


「おーっ、よかったな。五体満足で。目は俺に似てるな。でも、この子はママ似のイケメンになるな」と、パパになった喜びと感動を表した


これまでネガティブだった彼らだったが、感謝の想いを伝えることができた


「名前、考えていたの?」


「一応考えてきたさ。これがいいかな?」と、周吾は我が子の名前を書いた紙を千聡に見せた


”元起(げんき)”


「ま、字画が良かったから、他にいくつか考えてたけど、これが一番良かったかな」


「あたしも気に入っちゃった。まさに”げんき”な泣き声ね」


周吾の子供は”元起”と名付けられた


彼は、百代にメールを送った


”姉さん、産まれたんだよ!俺もやっとパパになったのか~”


”おめでとう。ちいちゃんよく頑張ったね”


”ヨメも赤ちゃんも無事でよかったよ”


弟夫婦に新しい家族が増え、幸せに満ち溢れていた


元起は新生児室でスヤスヤ眠っていた


寝顔はまさに天使のようだ


(あんなに欲しがってた子供なんだから、愛情かけて育てなきゃね)


一方、百代の仕事も順調で、次々と撮影の依頼が入ってきている


「モモちゃん、たちまち売れっ子モデルになるとは。飛ぶ鳥を落とす勢いですね」


「まだ”売れっ子”と言われるほど活躍していないですよ。そのうち、そう言われるようになりたいですけど。落ち込んでいた私を立ち直らせてくれたのは松倉さんのおかげです」と、笑いながら松倉に感謝の気持ちを伝えた


「そう言ってもらえるとボクも嬉しいです。モモちゃんと出会えたおかげで、自分も変えることができました」


「ありがとうございます。ところで、松倉さんは結婚はされてるのですか?」


「一昨年離婚しました。今は独身です」


「私、弟二人居るんですけど、それぞれ家庭持っていて、姉の私が取り残されて…”結婚なんてもうあきらめよう、一生独身を貫こう”って思っていたの」


「モモちゃん、ボクでよかったら…」


「えっ?本当ですか?私でよければ…それに私が年上だし…」


いきなりの松倉からのプロポーズだった


これまで百代は”結婚”すら考えたことはなかった


しかし、彼の一言で、考えが変わった


(年下でも、しっかりしているし、この人なら、きっとついていけると思う)


両親にも、入籍することを伝え、二人は晴れて夫婦となった


(今日から”松倉百代”なんだ!)


「じゃ、”ダーリン”って呼ぼうかな」


「ちょっと、照れるな~」


すると、両親から電話がかかってきて、


”おめでとう。やっと娘も親孝行してくれたか。ホッとしたよ。”


”私たちはこれからもずっと幸せでいられるようダーリンを支えていくから。あ、そうだ。温泉旅行行きたかったのでしょ?来週OFFだから、連れてってあげる”


”ありがとう。ところで、式や旅行はしないの?”


”籍を入れただけだから、いずれはね。ドレス着てみたいな”


”それは楽しみだな。お前の晴れ姿を是非見てみたいものだ”


そして、百代は両親とともに、念願だった一泊の温泉旅行に行った


(ダーリンも連れてってあげればよかったな。お披露目のために)



(つづく)