「ただいま~。やっぱ自分んちが落ち着くな」
「おっ、帰ってきたか。また痩せたな。まさか、病気じゃ…」
「また、だなんて。そんなわけないでしょ。私は元気よ」
「ヨメさん退院したんだってね。ペットはお前が引き取って面倒見るんじゃなかったのか?」
「それなら、ちいちゃんの妹が引き取ってくれたから心配ないよ」
「これで周らもマンションから出ていかずに済んだわ」
「それはよかった」
「私、仕事探さなきゃ。親の年金あてにしてはいけないもの」
「さんざん親を困らせてきたんだから、しっかり親孝行してくれ」
「うん、頑張るわ」
何日、いや何週間ぶりの我が家、特に変わったことはなく平然としていた
数日後―
就活中の百代だが、なかなか自分に合った仕事が見つからない
(会社も若い人優先だし.。かといって、あきらめてはダメなんだ。とにかく"当たって砕けろ!"だ)
いくつか面接に行ったが、すべて不採用―
(私に何が足りないのだろうか…)
就活はもうあきらめてニートになろうか、と思っていた時だった
百代の携帯の着信音が鳴った
"こんにちは。久しぶり。この前はありがとうな"
電話をかけてきたのは、周吾だった
"仕事の帰りに本屋寄ったんだ。そしたら、姉さんが載ってたよ。しかも表紙で"
(…ということは、smile me撮影時の…)
"なんか見覚えのある女性だなって"
彼が手にしたのは"smile me12月号"―
表紙を飾っているのは、なんと百代ではないか!
彼は普段の姉とはまったく別人か?と思うくらい衝撃を受けた
(ま…まさか姉さんが…いつもの姉さんじゃない…)
男性が女性向けのファッション誌を買うのに躊躇するものだが、自分の姉が表紙になってるのだから買わずにいられない、と勇気を出して買ってみた
"姉さん、表紙になってるじゃないか!!なんてカッコいいんだ。こんな姉さん見るのは初めてだよ!!"
周吾は嬉しそうに話していた
百代は、"ちょっと恥ずかしいな。誰だと思ってた?なんで私だとわかったの?"と、照れくさそうに笑った
"やっと自慢できるよ。ウチの姉さん、モデルやってるんだ、って"
"私、まだ仕事探してるんだ。でもなかなか採用してくれなくて"
"モデルはもうやりたくないの?"
"話があればね。あれからちいちゃん具合はどう?"
"昨日病院で検査あったけど、再発も転移もないでしょうって。先生から太鼓判押してくれたよ"
”よかったぁ~”
”それだけじゃないんだ。赤ちゃんできてますよ、って”
”ホントに?もうできないと思ってたのに”
(いつの間に作っちゃたんだろ?)
二人の新しい命が宿っていたのは、まさに奇跡としか思えない
残された三分の一に、絶望から希望へと変わった瞬間だった
(どうか、無事に生まれますように…)
”一番喜んでるのはヨメだよ。子供、子供ってあれだけ騒いでて、もうできない体になったら、落ち込んじゃってね…やっと俺もパパになるんだなぁ~”
周吾は、父親になる実感がわいてきたようだ
”今からパパになる練習しなくっちゃ”
”あははは…まだ早いよ。兄貴ん所も三人目ができたみたいだよ”
”わぁ、ダブルおめでたなんだ。だけど、私だけ取り残されちゃって、なんか一生独身なんて言ってられないわ”
”姉さんも彼氏作りなよ”
”やっぱりお金持ちと結婚してセレブになりたい。な~んて無理かな?私にはお金があれば、他は何もいらないし”
”結婚願望ないんだ。でも、結婚って、縁だからわからないし”
”ちいちゃん、つわりはどうなの?”
”今はつわりが酷くて食欲がないから、安静しているのが一番だけど、母子とも無事で健康にいられたら言うことなしだよ”
”そうよね。元気な赤ちゃんが産まれますように。じゃ、お大事に”
(つづく)