おじさんは、以前、このマンションで、周吾宅と同様、たくさんペットを飼っていた元住人を思い出した


だが、その住人は全くしつけができてなかったため、おじさんはうるさい鳴き声に相当悩まされていた


結局、彼を住民あげて追い出したのだ


おじさんにとって、こういう苦い体験があったからゆえ、周吾にお灸をすえてみたかったのだ


「ま、アンタが手放したくないのなら、それでいい。近所迷惑にならぬよう、しっかりしつけてくれたまえ。もし、今度そんなことがあったら、里親とか新しい飼い主を探すことだ。何度も言うが、ここはペット飼育禁止だぞ」


「はい。これから気をつけます」


(里親か…てっきり動物愛護センターに引き取られるかと思ったよ)


最悪手放さなければならないが、新たに飼い主が見つかればそれでもいいかと…


しかし、


(せっかく二人で愛情注いで育ててきたのに、手放すのは絶対にイヤだ)


「周、どうしたの?」


「いや、犬の鳴き声のことでちょっとね」


「そりゃ、近所からも苦情訴えてくるわよ。ワンワン吠えまくられると、住人もたまったもんじゃないわね」


「ちいちゃんのお見舞行かなくっちゃね。一緒に行かない?」


「俺も仕事あるし、家空けるわけにはいかないから、ワンコたちのことでまた何かあったら、今度は手放さなならないし」


「そうなの。私は犬猫の世話だけしておけばいいの?見舞いに行けないなんてなんか残念だわ」


「仕事帰りに病院寄っていくから、姉さんが来ていることはまだ言ってない。変に誤解されたら嫌だもん」


(ペットには気を遣うな…世話ができないなら手放せばいいのに…こんなにたくさんの動物の面倒は見れない)


百代は周吾にペットを手放すように勧めた


しかし、彼は、


「姉さん!絶対イヤだ!ペットは大事な家族なんだ。手放してくれ、って姉さん、なんて薄情なんだ!もういい…出てってくれないか…」


「な、なによ。いきなり。ペットの面倒見てくれって言ったの、アンタでしょ?私、もう家帰らないつもりでここに来たのに。もう実家には帰れなくなったのに…だって、親には”いつまでも親のスネをかじらずに自分の力で生きていけ”って言われたから…」


「家に帰れなくなったのか。喧嘩でもしたのか?」


「ううん、私もいい年だし、これ以上親不孝な娘でいたくなかったもの」


「姉さんも普通なら家庭持ってるはずなんだけど、これだけは縁だから仕方ないよ」


「ちいちゃん早く退院できるといいよね」


「ああ。あいつもペット気になってるみたいだし。でも、早く病院出てもな。容体急変する場合だってあるし、病院や先生の指示にしたがわないとね」


「うん。じっくり治してもらえばいいよね」


「じゃ、もう遅いから寝る。明日仕事あるし」


「おやすみ」


この日はペットの世話に明け暮れ、一日が長く感じた



(つづく)