(モデルって、大変そう…売れっ子になると、凄いもんね)
「褒めてくれるなんて嬉しい。生まれてから一度も褒められたことなかったの」
「そうだったんですか?実は、貴女に話があるのは…」
男が百代に話そうとしたことは、
「是非とも当所属のモデルになっていただきたいのです。さっきも話したように、貴女は脚もスラリと長いし、肌もすっぴんなのに、きめが細かい。モデルの素質は十分にあります。それなのに、それを生かさないようでは、もったいないですよ」
「う~ん、褒めてくれるのは嬉しいけど、自信はないわ。モデルって、若い娘ならもてはやされるのに、私のようなオバサンでもいいのかな…って」
「大丈夫です。ウチの事務所には、貴女くらいの年齢のモデルさんもいて、活躍されています。あ、わたくし、モデル事務所”ラベンダー”のスカウトをさせていただいております、松倉と申します」
「でも、声かけてくれるのはありがたいけど、即答はできないです。両親もどう思われてるのか、ちょっと考えさせて下さい」
「わかりました。もし、OKしてくださるのなら、こちらに電話してくださいね。あと、これを渡しておきます」
と、松倉は自分の携帯の番号が書かれている名刺を渡し、その場を去った
松倉一希、彼自身も元モデルで、ファッションショーや雑誌などで活躍していた
一流モデルを抱える事務所”ラベンダー”のスカウトマンだ
百代より3歳年下である
(モデルかあ…私に務まるだろうか…)
とはいえ、彼女は学生時代にモデルやコンパニオンの経験があるのだ
その後、職を転々として、定職に就かなくなり、ニートにいたったのだ
「ただいま~お腹すいたあ~お昼何も食べてないの」百代が昼食をとっていないので、空腹を耐えながら帰宅、冷蔵庫の中身を見てみた
「あれ…何もないや…」
「あら、おかえり。遅かったのね。どこ出かけていたの?」と、母・熱子
「就活してたの。私、働かずに家に居ても邪魔なだけでしょ?」
「やっとその気になってくれたのね。どこか見つかった?」
「ちょっと聞いてくれる?私ね、モデルになろうかと」
「え?!冗談でしょ」熱子は目を丸くして驚いた
「公園ふらついていたら、見ず知らずのかっこいいイケメンが、私に声かけてくれたの。最初は冗談かと思っちゃった。学生時代バイトしてたとはいえ、もう一度足を踏み入れたかった世界だからチャレンジしようかと」
「するしないは、アンタが決めることなんだから。でもね、甘くないよ。売れっ子ならいいけど、仕事のオファーが来ないとね。それに体重管理は厳しいから、アンタのような太りやすい人は気をつけないと」
「うん。自分太りやすいから、ちょっとでも油断してたらダメなんだ…」
百代は自分の部屋に行き、等身大の鏡があるので、自分の姿を映してみた
(カラダのことで褒められるなんて、嬉しい。でも、私猫背だし、姿勢をピシッとしておかないといけないよね)
スラリとした長い脚、折れるような細くくびれたウエスト、透き通るようなキレイな肌…といった、40前後の体型とは思えない完璧ボディー
(我ながらホレボレしちゃった…それを生かせる仕事ってやっぱり…)と、鏡に映った自分の姿をみてウットリしていた
なのに、普段着といえば、上下のジャージや、Tシャツ、ジーンズばかりだった
「ファッションの幅を広げないと!これから自信を持っておしゃれを楽しまないと!」
若いころに着ていたボディコン(死語?)のスーツも難なく着れた
(ハイレグだって、堂々と着ていたのにね)
そして、両親に”お披露目”した
「ねー、見てー。スゴイでしょー」
「なんて格好するんだ。みっともないだろ」
「ま、いいじゃない。若返ったつもりでいるんだから」
「あら、お父さんったら。どこに目をつけてるの?」
父・行男は百代の胸元を見て、
「お前は20代の頃から変わってないのう。それに脚もキレイだ。モデルにでもなればよかったのに」
「うん、それがね、モデルになるんだ」
「ま…まさか、本当かい」
「あら、モデルのアルバイトやってたの知らなかったの?あまり自信はないけど、やれるとこまでやってみるか」
「とにかく頑張ってくれたまえ」
「はい!!」
両親は反対するどころか、後押しをしてくれた
(つづく)