「えへへへ…また買っちゃった」
「”また買っちゃった”って、お前、年考えたことないのか?いつまでも子供じゃないんだぞ」
茗荷百代(みょうがももよ)―
アラフォーなのにいまだ独身、しかもニート歴5年、ゲームやアニメにはまっている
友人らは、結婚して家庭を持っている人ばかりで、本人は、結婚できないのは縁がないだけで、なによりもお金さえあれば幸せと思っている
百代は三人姉弟の長女、同居している両親は、弟二人はちゃんと家庭持って暮らしているのに、嫁ぐ意思もなく自由気ままな独身生活を貫こうとする彼女を心配している
(早く嫁に行ってほしいよ。この年齢で自分だけが取り残されてるのはまだしも、まともに働いてないと誰も貰い手なんかいない。親にとって辛いことだ)
両親―父・行男は普通のサラリーマンだったが、数年前に定年になり、週三日ビルの警備のアルバイトをしている
母・熱子は専業主婦で夫を支え、子供たちを育ててきた
「いいじゃない。私の楽しみはこれなんだから。お父さんもお母さんも結婚結婚ってうるさいわね。結婚して幸せに暮らすことが親孝行だとは思ってないもの。もう私は結婚なんて全然憧れてないし、一生独身でいたい。今の生活に満足しているし」
両親といっても、年金をもらっている身分なので、いずれは面倒見なくてはいけないのに、誰が面倒見てくれるのか
百代の弟で商社勤務の長男・紀夫は年収700万の営業課長で海外に長期出張中だ
妻と二人の娘がいて、妻の実家近くにマイホームを建てて暮らしている
妻は、結婚前、”親の面倒は見たくない”と言っていた
本来、面倒を見るべき長男夫婦にその意思がないのだ
「だって、弟二人とも親の面倒見ないって言ってたし、仕方ないじゃない」
IT企業に勤めているもう一人の弟、二男・周吾も結婚してマンションをローンにて購入、2人の間にまだ子供はいない
犬三匹、猫五匹飼っていて、夫婦ともども、動物が大好きである
「でもね、弟らはいいよね。親なんかどうなってもいいのかしら。悲しくなっちゃうよ。親がまだ元気ならいいけど、どちらかが倒れたら私が面倒見るしかないじゃない」
そんなある日、周吾からメールが届いた
”親のことは姉さんに任せて本当にいいのかと。俺らは親の面倒を見ない、って言ってたけど、やっぱ心配なんだ。親がどうなってもいいなんて、ちっとも思ってないよ。兄貴だってそう思ってるよ、たぶん”
すると、百代も返信した
”周(しゅう)、久しぶりね。わざわざ心配してくれてありがとう。子供、欲しいんじゃない?ペットで気を紛らわせているからいいか。そういえば、ちいちゃん(千聡=妻の名前)、不妊治療してるんだっけ?”
”俺もヨメも子供好きだから、早く欲しいよ。姪っ子会うたびにそう思うんだ。兄貴からも、【お前んとこまだかよ?】ってせかされるし。ところで姉さん、婚活しないの?”
”私は結婚しない、向いていないから。今さら無理ね。独身生活エンジョイしたいもの。ちいちゃん、不妊治療上手くいくといいね。赤ちゃんできるのを楽しみにしてるね”
(オイオイ…他人事みたいに言うなよ…)
”じゃ、ちいちゃんにもよろしくね”
しばらく周吾とメールのやりとりをしていた
(そりゃあ、友達のほとんどが、旦那も子供も居て、独身なのは私以外いないかも。さすがにあせるな…)
「やっぱり私にはお金さえあればいいんだ」
両親が元気なうちに親孝行したいとは思ってるものの、嫁ぐことが親孝行になるのだろうか
結婚しても夫婦関係が上手くいってなかったり、すぐに別れたり、幸せになるとは限らない
(弟らは上手くいってるからな…親も安心してるんだろう。それにひきかえ、私ったら…)
(つづく)