あれから服役期間を終えた婦美子は、家に戻り奈須夫との離婚を決意することにした


しかし、彼は離婚には応じてくれなかった


『婦美子、お前は母としては十分な役割を果たした。でもな、まだ妻としてやり終えてないことがある』


『え?どういうことなの?”いつでも別れてやる”って言ってたじゃない』


『ああ。子供らを巣立ったことだし、母としてはよくやってくれた。だが、お前は俺の女房であるということは、死ぬまでそういてほしいんだ』


『嬉しいわ。でも、あなたの妻でよかったのかと。ずっとずっと迷惑かけてきて、苦労かけて…母親としては精一杯してきたから、やっと第二の人生を歩きたかったのに。なぜ別れてくれないの?』


『だから、死ぬまで俺の女房で居てほしいんだ。お前以外考えられないよ』


『でも、私の決心は固いわ。ごめんね…もう心の準備はできているもの。30年間ありがとうね』


『そうか。残念だな。お前がそういうのなら仕方ない。子供も独立してることだし、心配しなくてもいいからな。だけど、たまには孫の顔を見に来いよ』


『うん。写メ送ってきてね』


奈須夫はしぶしぶ離婚届の判を押した


こうして、婦美子は30年の結婚生活に終止符を打ち、国本家をあとにした


婦美子が出て行ったあと、テーブルを見ると、置き手紙があった


奈須夫はそれを読んでみた


”30年間、いろんなことがありましたね。


振り返ってみれば、楽しかったこと、辛かったこと、嬉しかったこと、ムカついたこと、泣いたこと…


これらはすべてあなたとの、いい思い出になりました。


30年間は決して無駄ではなかったと思います。


だけど、あなたにとって”私の旦那でよかったのだろうか?”と考えることがあります。


それでも、あなたはずっと私を支え、守ってくれました。


私はあなたの妻で本当によかったと思います。


どうか、私のワガママを許してください。


長い間、ありがとう。そしてさようなら。    婦美子”


(婦美子よ…別れたとしても、お前の選んだ道なんだから、決して悔やまないでくれよ…)


実家のない婦美子は帰るあてもなく、近くの公園で野宿して一夜を過ごした


偶然にも家賃が安いアパートを見つけ、真面目に働くことを決意し、新たな生活を始めた



あれから、月日が経ち―


奈須夫の工務店は、不景気のあおりを受け、自主廃業し、


高松家は、新しい優秀な家政婦を雇っていた


そして、婦美子も新しい伴侶を迎え、幸せに暮らしているとか―



(おわり)