由実は真っ先に銀行に行った


通帳の中身やカードについてはまだ気づいていない


そして、銀行に着くや、通帳を見ると、


(何…どういうこと…)


なんと、お金がほぼ毎日のように引き出されていた


(どうして…なんてことなの…せっかく子供たちの将来のために貯めておいたのに…)


由実は怒りを越えてかなりショックだった


何もかもわけがわからなくなっていた


(お金が次々と減っている…なぜあんなに出されているのか…カードがないと出せないのに、彼女が暗証番号わかるわけないし、カード持っていても、番号教えた覚えがないし…いったい…)


婦美子は商店街あたりを自転車で走らせていると、銀行から出る由実を見つけた


『お母さん、どうしたのですか?元気ないですね』


すると由実は、


『どうしたの、こうもないでしょ?国本さん、私の口座から貯金下ろしませんでした?』


『え?私はお母さんからお金をもらって、それで買い物しているけど、通帳からはお金は出してませんよ。それに出したとしても、カードがないし、持ってても暗証番号わからないし。判子は持ってるんですか?』


婦美子は”私を疑う気?”と言わんばかりの顔で、由実を睨んだ


(私は何もしてないのに…)


二人の間に嫌な空気が漂い始めた


由実は、


(絶対国本さんに違いない。誰か泥棒に入ったとか、そういう話は聞いてないもの)と思っていた


そして二人一緒に帰宅―


一人留守番させていた実菜が、


『ママ、おかえり~おばちゃんもおかえり~』


と、二人の帰りを待っていた


『ごめんね、ミナちゃん。遅くなって。一人でお留守番してくれてえらいね。じゃ、ごほうびよ』


(国本さん、なぜ幼子一人留守番させるのか…)


『ミナちゃんの大好きなプリン買ってきたよ。あとで食べようね』


『わ~いおばちゃんありがとう』


二人は実菜の喜ぶ顔を見ると、さっきのことを忘れてしまったかのようだ


それでも冷たい空気はいまだ二人の間にある


(やはりおかしい…国本さんは私からお金を渡していても足りないのか…なぜ、こんなことに…)


『お母さんもボーっとしないで、好きなの選んで食べてちょうだいね』


と、婦美子が買ってきたスイーツを選ばせた


『ありがとう』


(これも私の…?)


由実は普段は笑顔を絶やさないのに、この日はさすがに表情が沈んでいた


一方、婦美子はニコニコしているが、裏では何考えてるのか、ひそかに悪事をたくらんでいるようだった


(どうせ私はクビになるのだろうから、やりたいだけやればいい)


という、開き直りとふてぶてしさ


”もう来てほしくない”と思われているから、やってもさほど気にならないのだろう


『もう、お母さんったら、顔曇らして。いつものお母さんじゃないよ』


『私がこうなったのも、誰のせいだと思う?』由実は顔をひきつらせた


『えっ?そんなこと言われても、わからないよ。ま、まさか私とでも思ってるの?』


『じゃ、聞いていい?私の通帳見てくれますか?ほぼ毎日お金をちょくちょく引き出されてるのっておかしいでしょ?』


『そうだよね、アハハハ…』


(アハハハ…じゃないでしょ、なんなの、この人。なんて神経なの。人間疑うわ…)

由実は婦美子のあっけらかんとした言いっぷりに、何も言い返せずに只、呆れていた


二人のそばで、実菜は彼女たちのことは気にせず、美味しそうにプリンを食べていた


『おばちゃん、おいしい。ありがとう』


『”おいしい”って言ってくれると嬉しいわ。私、ミナちゃんから元気もらってるもの』


『実菜、食べたら隣の部屋でお昼寝しててね。まだ私たち話があるから』


『はーい』



(つづく)