数日後―
由実が探し物をしていて、部屋中をうろついていたとき、ソファを動かしてたら、
『あれ…私の通帳がない…』
(まさか、国本さんが…)
『ママどうしたの?』葉菜が言った
『私の通帳知らない?』
『知らないよ。なんでこんなところに置いてたの?普通、置くような場所じゃないでしょ?』
『だって、ソファなら、重いから動かせないと思って』
『あたしは動かせるよ。それなら、タンスとかにしまっておけばいいのに』
(それにしても、ママったら、大事なものをソファの下に隠しておくなんて、あたしだったら考えられない…)
由実は”ここなら大丈夫”と思い、ソファの下に隠しておいたのだろう
(もうじき、国本さんが来るから聞いてみようか)
『おはようございます』
婦美子はいつものようにはずんだ声でやってきた
『おはよう…』
『あれ、お母さん、落ち込んじゃって。どうかしましたか?いつものお母さんらしくないよ』
普段はめったに暗い表情を見せない由実だが、この日はさすがに元気がなかった
『あの…ソファの下に置いてあった私の通帳、見ませんでした?』
『えーっ、なんでそんなところに置いてたのですか?普通ならタンスとかにしまってたりするじゃない?』
『この部屋掃除していたとき、ソファ動かしませんでした?』
『え?あんな重いもの、私じゃ動かせませんよ』
(葉菜は簡単に動かせるというのに…)
『あ…ありましたよ!!』
『えっ?』
婦美子はサイドボードの上に置いてある由実の通帳を見つけた
『あ…ありがとう』
(おかしいな…さっき見たときはなかったのに。錯覚なのか…)
由実は不審そうに思った
(国本さんがその隙に置いたのだろうか…)
『お母さん、私夕食の買い物に行ってきます』
『ちょっと待って下さい』
『え?』
『さっき、サイドボード見たら、なかったのですよ。なのに、どうしてあったのか、不思議なんです』
『アハハハ、気のせいでしょ?見えているのに見てないフリしちゃって~』
由実はこの一言で、態度が急変した
『どういう意味なんですか?私はそこを見たら本当になかったんです!なのに、なんて言い方するのですか。酷いじゃありませんか?』
『あら?私が言ったことが気に入らないとでも?文句あるのならいくらでも言ってくださいね』
あまりにも、婦美子の開き直りっぷりに、由実は堪忍袋の緒が切れそうになった
『なら、私にも考えがあります。国本さん、いきなり言うのもなんですが、今日までにしてもらえないでしょうか?』
『は?』
『明日から来なくてけっこうです』
由実は彼女に解雇を言い渡した
『ちょ、ちょっと、何言ってるんですか。びっくりしたわ。せっかく子供たちと仲良くなれたのに、何が気に入らないとでも?私のやり方に不満があるのですか?』
それにしても、婦美子のふてぶてしさに、由実は呆れてモノも言えなかった
(あんな人にお金は払えない…家政婦なのに、ロクな仕事をしてくれない、料理もまともに作れない、家事の基本すらできてない人だったなんて…雇う必要なかったかも…)
『不満どうこうじゃなくて、雇われた以上きちんと仕事してほしかったんです』
(そういえば、国本さん、おかしげな行動とってるのたまに目にするけど、私らが居ないときに、コソコソやってるんじゃないかと…)
『私、ちゃんとやってます!子供の世話は自信ありますから!!だって、5人も育ててきたんだもの。高松さんのお子さんたち、みんないい子ですよ。最初は嫌がってたけどすぐに仲良くなれたし、ミナちゃんなんかは、私がお母さんと間違われたくらいだったもの』
『私、これから出かけてくるから、実菜とお留守番お願いしますね』
『はい、まかせて下さい』
由実はこの日は仕事休みだった
婦美子に実菜の面倒を見てもらうため、一人で外出した
彼女はその間家事をこなした
『さて、買い物に行ってくるか。ミナちゃん、一人でお留守番できるかな?ミナちゃんの好きな物買ってきてあげるから、おりこうしてるのよ』
と、実菜一人留守番させて、家のカギをかけて、自転車を走らせた
『うん。いってらっしゃい』
(つづく)