数日後―


実菜は風邪が治り、すっかり元気になっていた


『今日、日曜日だから、フミちゃん来ないんだ』


『じゃぁ、みんなでお出かけしない?天気もいいし』


『さんせ~い』


単身赴任中の父・幸一が帰ってくるのは、半年後だ


由実は、いつも子供たちに寂しい思いをさせているので、たまには家族サービスをしてあげたいと思っていた


そして、次の日―


子供たちが学校行ったあと、由実はいつものように実菜を保育園に送り、職場に向かった


まもなく、婦美子が持っている合鍵で、家のドアを開けた


彼女は由実の預金通帳を自分のバッグに入れていた


(あとは、カードがあれば…)


洗濯・掃除を済ませた後、夕食の買い物に行った


『今日はうんとごちそうしよう』と、自転車のカゴに入りきれないほど、たくさん買ってきた


だが、買ってきたのは、パーティー用のオードブルやお寿司、それにケーキだった


この日、家族に誕生日を迎える人はいないのに、なぜだろうか


実菜を除く子供たちが帰宅―


葉菜は受験のため、自分の部屋で勉強し、


草多は、週2日通ってる近所の塾へ行った


咲野は、友達と遊ぶ約束をしていた


(誕生日の人は誰も居ないから、サプライズにしておこーっと)


仕事を終えた由実が実菜を連れて帰宅


『おかえり、ミナちゃん。お母さんもお疲れ様。今日ね、みんなにごちそうしてあげるね』


『それは楽しみですね』


(あれー?)


由実は、婦美子の行動を見て、”これは怪しい”と感じた


(ウチで誕生日や特別な日でもないのに、どういう風の吹き回しなんだろう…)


『あのー、国本さん、夕飯の準備に取りかかるの遅くありません?』


『大丈夫ですよ。これから作りますから。そんなに時間かかるものでもないですし。そのうち、お兄ちゃんたちも帰ってくるでしょうから』


それでも、由実は婦美子の言い分に嘘があると思っていた


(絶対おかしい…)


婦美子は手際よく料理を作っている


だが、”作っている”のではなく、さきほど買ってきたオードブルやお寿司を別の皿に盛りつけただけだった


『できたぁ!!』


『あら、すごいじゃない!お寿司も作れるのですか?』


『ご飯炊いて、寿司飯作って、刺身用のヤツを買って作ったの』


『国本さんの作る料理って、簡単でいいですよね』


『だって、”早いがごちそう”っていうじゃない?お母さんの得意料理ってないのですか?』


『私も料理は苦手なんですよ。それに、フルタイムで残業もあるから、食事作ってる時間なくてね。人のことが言えないですよね、アハハハ…』


『大変なのはわかります!私だって5人もいるんだもの。とにかくガムシャラにやってきたから、手抜きもしょうがないですよ』


『へぇー、5人もですか?』


『でも、けっこう楽でしたよ。おとなしい子ばっかりだったから、手がかからなくて』


『育てやすかったのですね』


男の子2人が帰ってきて、いよいよ夕食―


『わぁ~すご~い』


『今日誕生日誰も居ないのになんで?パーティーするの?』


『たまにはいいでしょ?家族パーティーよ』


婦美子は、子供たちが喜んでる顔を見ると、自分も嬉しくなった


『さ、みんな食べよ。それからケーキも用意してるよ』


『いただきま~す』


(……?あれ…?)


『どうしたの?なにか変ったことでも…?』


『これ、スーパーで買ったお惣菜?』


『なんでわかったの?』


(やっぱ、国本さん作ってなかったんだ…)


『だって、皿に移しただけじゃん。これ、前に食べたことあるもん』


婦美子は子供らがスーパーの惣菜でも、何も文句言わずに食べてくれるだろうと思っていた


しかし、それを見抜いていた、ということは、”子供を侮ってはいけない”のがわかった


由実は、婦美子の家政婦として失格の烙印を押すつもりでいる


(でも、彼女をクビにしても、代わりに務まる人がいるのだろうか。それとも、本人が辞めるといってくれたら一番いいのに…)


婦美子は、せっかくの楽しい時間を、このような雰囲気でぶち壊してしまったことに、家族に申しわけない気持ちもあった


それどころか、開き直っていた


『だって、みんな楽しそうにしていたんだもの。でも、急に顔色変えちゃって、私、がっかりしちゃった。子供たちが喜んでる顔が見たかったんだもん』




(つづく)