由実は、


『ちょっと、国本さんっておかしくない?家政婦なのに、手伝わせるなんて』


『そうよね。自分では何もできないのかな?』


『何のために家政婦雇ってるのかわからないよね』


(お腹すいちゃったから、食べようかな…)と、せっかく作ってくれた食事を食べてみた


『美味しい!!私が作るより美味しい!!』


『だから、みんなで作ったから美味しいの』


葉菜は笑った


しかし、由実はそれだけでは納得できなかった


(国本さんはいったい何を考えているのか…)



婦美子が来て一週間―


この日は朝から雨が降っている


子供たちが学校へ行ったあと、由実は実菜が熱を出して病院へ連れて行くため、仕事を休んだ


(風邪かな?もうそろそろ国本さんが来る時間よね…)


『おはようございます』


婦美子がいつもの時間より、少し早く高松家に来た


『お母さん、お仕事休みなんですか?』


『ええ。実菜が熱出しちゃって、これから病院連れていくところなの』


『私が連れて行きましょうか』


『いえ、けっこうです』


『でも、お母さんお仕事休んでまで連れて行くのなら、私がします』


『国本さん、あなたは何もわかっていないのね』


実菜は高熱を出し、ぐずっている


由実は、


『早く連れて行かないといけないから、家のことをよろしく頼みますね』


といって、病院に行った


婦美子は、


(洗濯物多いし、雨降ってるから乾かないし…干す場所も狭いし…)


と、恨めしそうに外を眺めていた


洗濯機を回し、部屋の掃除を始めた


掃除機をかけていて、ソファをはぐってみると、何か隠されていた


(こんなところに預金通帳があるなんて…)


それは、なんと、由実の口座がある銀行の通帳だった


婦美子はおそるおそる通帳の中身を見た


(す…すごい…こんなに貯金があるとは…)


子だくさんの高松家、子供たちが大きくなると教育費がかかるから、先のことを考えて貯金しているのだ


(そうだよね…子供が高校より上に行きだすとお金かかるもんね。ウチはそんな余裕はなかったけど、高校だけは出させたかった)


『どうしよう…こんなに洗濯物多いと干す場所がないよ…乾燥機ついていないのかな?』


婦美子は干す場所がないか探していると、由実と実菜が病院から帰ってきた


『おかえりなさい。ミナちゃんの熱は少しは下がったのですか?』


『ただの風邪でしたよ。インフルエンザかと思っていたけど、熱もだいぶ下がったみたい』


『それは安心しました。よかったね、ミナちゃん。何か食べたいものがあったら言ってくださいね』


『実菜はあんまり食欲がなくて、なるべく水分を多くとるように言われたんです』


『そうですか。でも、何か食べないと、元気になりませんからね。果物は好きでしょ?』


実菜は熱が下がったとはいえ、ぐったりしている感はあった


(早く元気にな~れ)


『ところで、国本さんはヘルパーされてたんですね』


『はい。かなり昔なんですが…でも、クビにされたんです』


『そうなんですか』


『だから、ミナちゃんは、私が面倒見ます』


『おまかせしますね』


由実は実菜の面倒を婦美子にまかせ、自分の部屋に行った


『ミナちゃん、早く元気にな~れ』


『おばちゃん、ありがとう。ミナ、のどが渇いた』


『うん。熱があるときは、スポーツドリンクがいいのね』


婦美子は冷蔵庫にあるスポーツドリンクを実菜に飲ませた


しかし、実菜はどうもその味が苦手らしく、


『まずい』といって吐き出した


(ダメだったか…)


『ミナ、オレンジのが飲みたい』


『そうだったんだ。冷蔵庫にオレンジジュースあったよね』


実菜はオレンジジュースをおいしそうに飲んでいた


(これで元気になってくれるといいな)


『おばちゃん、ありがとう』


『ミナちゃんの笑顔見てると、私も元気もらってるからね』


『そういってくれるとうれしい』


『お昼ごはん食べないと、お薬飲めないもんね』


『うん』


朝から降り続いていた雨は、午後にはやんでいた




(つづく)