お腹をすかしている子供たちを先に食べさせ、婦美子は自分の子育て時代を振り返った
『そりゃ、大変だったよ~。子供ほったらかしてたもの。朝早くから晩遅くまで働きづめだったからね。まだ首の据わらない赤子おぶって田畑耕したり、田植えしてたんだから。それに夜なべで内職もしてたのよ』
『マジで~?休む暇なかったんだ』
残業を終えた由実が帰宅した
『お母さんおかえりなさい。おじゃましております。ひまわり家政婦紹介所からきました国本です。宜しくお願いします』
『こちらこそ宜しくお願いします』
『お疲れ様でした。お仕事忙しんですね。子供たちはごはん食べさせたから、お母さんも食べてください』
『ありがとうございます。ところで、国本さんの得意料理ってあるのですか?』
『恥ずかしいですけど、料理得意じゃないです。むしろ嫌いですね』
由実は一瞬顔をこわばらせた
(こんなので、家政婦が務まるのかしら…)
『あ、お母さん、どうしたのですか?食べてくださいよ』
『ごめんなさい。お腹痛くなっちゃった…せっかく用意してくださったのに』
結局、由実は料理に箸をつけなかった
『ママおかえり~おばちゃんすげーよ。だって5人も子供育ててきたんだもん』
子供たちは口をそろえて言った
どうやら婦美子を気にいったようだ
『でもね、ごはんが作れないと困るでしょ』
『私、家政婦失格だわ。だけど、料理もする気が出てくれば、できると思うからしっかり努力しないとね。みんな、ごめんね。もう帰るから』
『おばちゃん、ありがとう』
『国本さん、明日もお願いしますね。お疲れ様でした。それから、これを渡しときますね』
由実は婦美子に家の合鍵を渡した
初日は、家族とのコミニュケーションがとれてるから、まずまずといっていいかもしれない
とはいえ、料理ができないのは、本人としては落第点なのだろう
翌日、高松家では―
朝食をすませ、子供たちを学校へ送りだし、由実は仕事場へ向かう途中、末娘・実菜を保育園に預けた
あれから30分後、婦美子は合鍵で家のドアを開けた
『さて、これから何しようかな』
彼女は家中の掃除を始めた
キッチン・子供部屋・お風呂・WCなど、とにかく掃除する箇所が多い
(こりゃ、重労働だな…)
『子供部屋、すごく散らかってる…ウチとこも酷かったけど、ここはもっと酷いね』
婦美子は最初に子供部屋から取りかかった
子供部屋は兄弟別々でなく、同じ部屋で遊んだり勉強したり一緒にしている
部屋には、ゲーム機や脱ぎっぱなしの衣服、マンガ本などが散らばっていた
”汚部屋”というほどでもないが、さすがにお手上げだった
しかも、臭いがハンパない
(臭い…すごいわ…汗臭さと何かが入り混じったような…)
服は洗濯機にかけ、本は本棚にしまっておいた
(子供ら帰ってきたら叱らないと)
一通り掃除と洗濯を済ませ、子供たちの帰りを待つことに
『まだ時間あるから、夕食の買い物しておかないと』
婦美子は夕食の材料を買いに近所のスーパーまで、自転車を走らせた
(ここのスーパー、安いんだって。今日はちゃんと料理しなくっちゃ!)
子供たちは食欲旺盛、食べる量もハンパない
そのため、食費もすごくかかる
やがて、通学組が次々に帰宅―
『おかえり~』
『おばちゃんただいま』
『おばちゃんって…”フミちゃん”でいいよ』
『じゃぁ、フミちゃん、宿題があるから、部屋行っとくよ』
『ちょっと待った~~~!!』
『えっ?!』
『あんたたちの居ない間に部屋片づけたけど、すっごく散らかってたじゃない』
(まったく、どういうしつけされてるのやら…)と言いたげな婦美子の顔に、子供たちは
『勝手に入らないで!!』
『そうだ、そうだ』
『だって、こんなに散らかってたら勉強できないでしょ?』
『片づけてない方が落ち着くんだもん』
『へぇ~変わってるのね。ウチの子だったら引っぱたいてるわよ』
『うわっ、フミちゃん、オニババ~』
『そうよ、私を怒らせたら怖いわよ』
(まったく、可愛げのない子供らこと)
子供たちは自分らの部屋に戻った
すると、
『うわっ、どこに何があるかわからないよ』
『だから、片づけてほしくなかったのに』
(つづく)