夜が明け、朝の陽ざしが降り注いでいる
幹はアサミと手をつないだまま寝ていた
彼の片方の手はアサミの胸に当てていた
『アサミ、起きろ』
『あ…お兄ちゃん、おはよ…』
『もう帰る』
(やっと帰ってくれた…)
アサミは午前中のバイトに行くため、服を着替えた
彼女はバイトを掛け持ちしている
午前中は ショップの店員
夜はキャバ嬢
そうしていかないと一人暮らしは厳しい
(家賃高いもの。キャバでの仕事も順風満帆じゃないし、ここ最近景気悪くて客の入りもよくないから…)
それでも、彼女は”指名№1キャバ嬢”として人気者である
幹は夕子と会う約束をするため、彼女の携帯にメールを入れた
”久しぶりだな~元気してる~♪
夕子がバイト辞めちゃってから、なかなか会えなくて
自分、忙しいし、ゴメンな
え?心配してない?
うっそー!?そりゃないよ><
で、今日は家に居るの?
いつか遊びに行かない?
返事待ってるよ♪”
しばらくして、夕子からメールが来た
”あたしは元気だよ~♪
みっちゃん忙しいんだ
メール来なかったから
どうしてるのかな~って
よかったあ~^^♪
今度会えるのを楽しみにしてま~す
ありがとう
”
夕子は勤めていたバイトを一身上の理由で辞めた
今は、家事をしながら就活している
(やったぁ!!!)
幹のテンションが上がった
(ワクワクするなぁ~本物の”彼女”と久しぶりに会えるなんて!)
いよいよ当日―
『みっちゃんお待たせ』
『やぁ、誰かと思ったよ。だって、普段そんな格好してないもんな。でも似合ってるよ』
『ホントに?嬉しいな。みっちゃんこそ、イケメンがさらにイケメンになってるよ』
2人は待ち合わせの場所に着くと
さっそくお気に入りのカフェを見つけ、入ってみた
『わぁ、ステキね。なんか癒されるわ。落ち着いた雰囲気よね』
『何か注文しようよ。俺はアイスラテ』
『あたしは黒糖抹茶ラテ』
『そうだ、お腹すいたなぁ。ちょうどランチタイムになったし。唐揚げランチなんてどう?サラダもついてるし。俺はこれがいいや』
『じゃあ、ハンバーグランチにするわ』
2人はお腹がすいてたのか、美味しそうに食べていた
『ごちそうさま~♪次、どこ行く?』
幹はどこか不安げに夕子を見つめていた
『あっ、みっちゃん、ちょっと痩せたんじゃない?』
『う~ん、ダイエットもしてないしなぁ。なんでだろ…?』
(やっぱ、夕子じゃ燃えないなぁ。アサミとは天と地、月とスッポンだ)
幹の頭の中は、妹・アサミのことでいっぱいになっている
『みっちゃん、何ボーっとしてるの。ほら、行きましょ!』
『…あ…ゴメン…』
(しかし、なぜだろう…夕子にはときめかない…)
『みっちゃん、ちょっとおかしくない?きっと何かあるでしょ?』
『ごめん…急に用事があるの思い出した!悪いけど帰っていい?』
『えーーーっ!?なんでいきなり!?デート誘ってくれたの、アンタでしょ?』
『いや、考え事してたら、思い出したんだ。ゴメン、また会おうよ』
『もうっ!!みっちゃんにはガッカリしたわ。まさか彼女でもできたんじゃ…』
『違うってばっ!!』
(アサミのことを考えただけで…夕子にはときめきも何もしない…)
幹は”用事ができた”というのは口実で、アサミのバイト先と連絡をとるために、逃げていた
(夕子とは、もう会えなくなるかも…)
夕子は親友のるいかにメールを送った
”るいか、ちょっと聞いてくれる?
みっちゃんたら、デート中に急に帰っちゃうんだもん
せっかく会えたのにガッカリ
新しい彼女でもできたのかな?”
るいかから返信―
”えーーーっ!?マジで!?
ありえないでしょ?
彼ね、妹が居るんだけど
その妹、グラドルになっていいくらいイイカラダしてるんだもん
まだ16,7だっけ?”
”あ、みっちゃんの妹、居てるんだ
高校で問題起こして退学になってたって”
”彼女ね、あれから家族と離れてバイトしながら一人暮らしだって
学校、電車通学してたけど、しょっちゅうチカンに遭われたって、みっちゃん言ってたし…”
(あたしは一度もないし、それって自慢かよ)
しばらくるいかとはメールのやりとりをしていた
夕子は”久しぶり”の時間を、幹のせいでぶち壊され、誘われても二度と行かないと、心に決めていた
幹は、アサミのバイト先へ電話をしたが、つながらない
彼女のアパートへ行くと、カギがかかっていて、まだ外出中で、彼女の携帯に電話をしても、留守電になっていた
(合いカギ持ってきてなかった!帰ってくるまで待っておこうか…)
アサミが帰ってくるのを待ちながら、幹は暇つぶしに、近所のコンビニで立ち読みをしていた
すると、彼の携帯の着信音が鳴った
”みっちゃん、どうしたの?
なんで、いきなり帰っちゃったの?
あたしとみっちゃんとは、
もうカレカノの関係じゃなくなったから
新しい彼女と仲良くやってね”
突然の夕子からのお別れのメールだった
(ゴメン…本当にゴメン…やっぱ俺には…)
(つづく)