一夜(いちや)明けー
『今日も頑張るよ』
『わぁ、やる気モード出してくれたんだ』
『やっぱり将来のため貯金しておかないとな。元気なうちに稼いでおかないと、
大病になったら、働けないもの』
『そうだよね。頑張ってね』
(女房のためじゃなく、タカヨのためなんだけどな…)
”マンデービーチ”にてー
『おはようございます』
『リョウちゃん、今日は手加減しないわよ』
『はい、宜しくお願いします』
『モーニング二つお願いね』
『あのー、モーニングってトーストと何ですか?』
『フライドエッグにサラダ、ドレッシング付で。それとコーヒー』
(フライドエッグって、何だろ)
やがて、ランチタイムに入り客が増え始める
『こんにちは。タカちゃん』
『あら、久しぶり。元気にしてた?』
店に入ってきたのは、常連客の一人である
タカヨが店で働き始めた頃からの顔なじみ
男はカウンター正面に座り
『新人さんが入ってきたんだね?』
『うん。私の幼馴染なんだけど、その人奥さんも子供もいるの』
『へぇー、そうなんだ。俺もとうとうシングルだよ』
『別れちゃったの?』
『ああ。男ができちゃってさ、それっきり帰ってこなくなったんだよ。あの時はすげーショックだったよ』
(タカヨもシングル、この男もシングル…なんか嫌な予感がするな…)
リョウは奥のキッチンに居ながら、二人の会話が耳に入ってくる
(きっと、2人の関係は相当ヤバいに違いない)
それでも、彼は会話も気にせず、黙々と料理を作っている
(それどころではない。でも、やはり気になるな…)
まだぎこちなさはあるものの、手つきもだいぶ良くなってきた
(しかし、スゲー客増えたな…自分一人じゃ手が回らないよ。何とかの手も借りたいのに…)
『リョウちゃん、ごめんごめん。まだまだ一人じゃ任せられないもんね』
(よかった~助かった)
『次々に注文が入ってくるから、要領よくやらないとね。
ほら、コンロ一つ空いてるじゃない』
『は、はい…』
(気がゆるめないな…やっぱタカヨは頼りになるな。それにひきかえ…)
『リョウちゃん、ここは私に任せて、休憩してね』
『ありがとうございます』
(やっと休める…)
ランチタイムになると店内は様々な客であふれていた
『リョウちゃん、これ食べる?』
『ありがとうございます。いただきます』
タカヨはリョウに食べさせるため、まかないを作っていた
(美味い…!タカヨの料理は最高に美味いよ!)
リョウは店の二階にある休憩室に行き食べていた
しかし、休憩は30分しかない
食事を済ませると、すぐにキッチンに戻った
『あら、早いのね』
『忙しいでしょ?さっきはごちそうさまでした』
(まだ、あの男が居る…いったいいつまで居てるのか…)
リョウはカウンターに目をやると、男はまだ座っていた
日が暮れて、閉店時間が近づき
『じゃ、俺は帰る』
『また来てね~あ、今度店が休みなら飲みにいかない?』
『いいねぇ~シングル同士、花咲かそうよ。楽しみだなあ』
リョウはキッチンの掃除を丁寧にし、
タカヨは店の片付けをサッと済ませ、
マスターは売り上げの計算をしていた
『お疲れ様でした~』
『ところで、ツキヤマ君、もう慣れたかね?』と、マスター
『はい。皆の足を引っ張らないように頑張ります』
『そうか。頼んだよ』
(入ったばかりなのに、まだ無理だろ…)
それよりも、あの男が気になる…
しかもバツイチだし、タカヨと気が合ってるし
もし彼女に何かあったら…
一日が終わるのって、こんなに早いとは…
リョウの携帯にタカヨのメールが入った
”今日もお疲れ様![]()
あ、あの人は気にしないでね(^_^;)
別に何の関係も持っていないから![]()
明日も頑張ろう~![]()
![]()
じゃ、おやすみ~
”
(気にしないで、って言うけど、どうも怪しいな…)
やっと帰宅ー
ユミコは先に寝ていた
すると、テーブルに書き置きがあったので、読んでみた
”お仕事お疲れ様。お腹すいたでしょ?これ食べてね。私は先に寝るからごめんね”
(まさか、食事を用意してくれてるとは!今まで一度もなかったのに…)
リョウはユミコが作ってくれた料理を食べた
(こんなに美味しいとは!本当にあいつが作ったのか?
出来合いものばかり並べたんじゃないのか?
ま、手抜きでもいいじゃないか、何もないよりはマシ、
やはりここは、素直に”ありがとう”ととらえておこうか)
私も少しずつではあるが、彼への感謝の気持ちを表すようになった
離れていた二人の心が、だんだん近づけるように…
(よ~し、明日も頑張るぞ!)
(つづく)