リョウは一瞬表情が固まったものの、すかさず返信した


”本当かい\(゜□゜)/タカヨの店で働けるなんて、夢にも思ってなかったよo(^▽^)o

チョ~嬉し~♪

で、どんなことするの(@_@)

仕事探すにせよ、もう年齢的に無理だったから

あきらめてたんだ(*^▽^*)

よかった~(≧▽≦)♪”


『おい、俺来週から働くことにしたよ』

『よかったじゃない。で、どこなの?』

(こんな嬉しそうな顔見るの、久しぶり…)

『駅前の大通りにあるカフェなんだ』

『え?まさか、”マンデービーチ”じゃないよね?』

『違うよ。駅前ならいくらでもあるだろ』

『そうね』

リョウの言うことは私は信じたくなかった

カフェの求人なんてしてたっけ?

しかも、就活してないのに、いとも簡単に決まるなんて…

(やっと無職でなくなるんだ!よ~し、頑張るぞ!お金貯めて2人の生活資金にしないと)

2人、というのは、タカヨとである

やはり、私との離婚を視野にいれているみたいだ


『お…おい、俺を疑うのかい?』

『でも、カフェで働くなんて初めてじゃない?すごく不安でしょ?』

『そうだな。サラリーマンやってた頃がよかったね』

『この齢で仕事見つけるの難しいし、私がもっとしっかりやってれば、貴方に苦労かけてなかったかも』

『頑張るよ』

(ま、仲の悪い夫婦ほど、家に居る時間が長いっていうらしいし)


いよいよ初出勤

(えーっと、ここが”マンデービーチ”か。看板派手だな~)


”マンデービーチ”タカヨが働いているカフェだ

店に入ると、

『こんにちは。今日からお世話になります、ツキヤマと申します。宜しくお願いします』

『リョウちゃん、マスターのモトイさんよ』

”マスター”といっても名ばかりで、店はタカヨが切り盛りしている

『ツキヤマさん、マスターのモトイです。こちらこそ宜しく』

『アルバイトのハルカちゃん、まだ高校生だけど、接客態度はすごくいいよ』

『こんにちは。ツキヤマです』

『ハルカです。宜しくお願いします』

(可愛い。高校生がバイトしてるなんて、感心だな)


『じゃ、リョウちゃん、さっそくだけどパンケーキ焼いて』

(えっ?)

『私が教えてあげるから言う通りにしてね』

『はい…』

店の奥にあるキッチンがリョウの仕事場だ

タカヨは客から注文を受け、リョウに作ってもらうよう指示した

まだ初めてなので、彼女も一緒に手伝っている

(タカヨはさすがに手際がいい。それに比べて、俺ときたら…)


『まずは、フライパンに油ひいて、私が生地を作るから、それをおたまにすくって流すの』

『…は、はい……』

『おたまの半分の量をフライパンに流して。ホットケーキ焼いたことある?』

『ないです…』

『それ2枚焼いて、焼いたのを皿に移してアイスと生クリームのせて』

『は、はい…』

『これにフルーツとチョコシロップかけて』

(緊張してうまくいかないや。けっこう難しいな)

『お待たせしました』

(でも美味しそうだな。食べたくなってきたよ)


店内はOLや学生、カップルなど大勢の客でごったがえしてた

目が回るほど忙しいにもかかわらず、タカヨは、たくさんの注文が入ってもテキパキと落ち着いて料理を作っていた


『今度はペスカトーレ作って』

(え?知らない料理ばっか…)

『海の幸のスパゲッティよ』

(自分和食党だから、さっぱりわからないよ)

『冷蔵庫からイカとエビ、アサリを出して。それらをオリーブ油でニンニクと炒めるのよ』

『え…っとオリーブ油、どこにあるの?』

『オイルは棚の上にあるよ。炒めたらトマトと白ワイン・塩で味付けして、煮込むの。私はスパゲッティ茹でておくから』


慣れぬうちは時間が経つのが長く感じる

かえって、タカヨの足手まといになって、手がなかなか自分の思う動きができていない

(大丈夫かな…)

たくさん注文きても、せっかく来てくれたお客さん帰らせてしまうと店の売り上げに影響しかねないからな…


『あとは私に任せて』

タカヨの手がチャチャッと動く

あっという間に一品できあがった

次々に来る客にもテキパキ対応をしていた

(やっぱり、俺には向いていないかも…)


そんなこんなで、閉店時間がきた

『お疲れ様。初めてやってみて、どうだった?』

『思ってたより疲れましたよ。でも慣れれば大丈夫と思います』

『あと、キッチンの掃除をしておかないと、明日も使うから、汚いままでは不衛生になるでしょ』

コンロや流し台、換気扇などを丁寧にみがいて、やっと一日の仕事が終わった

『ありがとうございました。明日も宜しくお願いします』



そして、帰宅ー

時計を見ると21:00過ぎていた

『お疲れ様』

『疲れたよ。早々自分で作らなきゃならないなんて。気を遣うな』

『初めてだもの。慣れないうちは仕方ないよね』

『客が次々来るんだから休む間がなかったよ』

『忙しいくらいがいいんじゃない?あんまり暇なら退屈するよ』

『さすがにこたえたよ。俺には向いてなさそうだ』

『えーっ、もう辞めるの?まだ初日だよ。次の仕事探しても簡単に見つかるわけないし』

(どうも怪しいわ…絶対”あの店”よ)

私は”マンデービーチ”でリョウが働いていると思っているのだ

どうして嘘をつくのだろうか…

だって、駅前のカフェ、たくさんあるけど

”マンデービーチ”はタウン誌などでも取り上げられる有名なお店

タカヨの料理が評判と口コミでひろがった

『でも、辞めてもいくとこないから辛抱しようよ』

リョウは肩を落とした

想像以上にキツい仕事だった

(タカヨはなぜあんなにバリバリやっているのか。大勢の客が来ても要領よくこなしてるし、すごく落ち着いている…俺には無理だな…)


『ねぇ、聞いていい?駅前のカフェって、まさか”マンデービーチ”?』

『いや、”ブルーベリー”だよ』

(”マンデービーチ”かと思った…よかった、他のところで)

『あ、晩飯はいらないよ。食べてきたんだ。風呂入って寝るよ』

『おやすみ』



(つづく)