『こんばんは~今日新メニュー出したんだ。イワシって安いじゃない?これだったら、魚が苦手な人でも食べられるかと』
(俺、魚苦手なんだ…これなら食べられそう)
彼女の名前はカミムラタカヨ
リョウの元カノである
カフェ”マンデービーチ”でコックとして働いている
家事全般得意で、お酒が大好き
家事がロクにできない妻、ユミコに代わり、料理のおすそ分けをしたり、
時には作ってくれたりする
『いつも悪いな~女房、ちっともメシ作ってくれなくて困ってるんだ。美味しそうだな』
『”イワシのグリエ”っていうの。あ、そうだ、一緒にワイン飲もうよ』
『ワインに合いそうだな。これ自分で考えたのか?』
『レストランで食べてたら、すごく美味しかったの。で、自分で作ってみようかと』
『すごいなー。やっぱタカヨは料理の天才だな』
『天才だなんて。お世辞言っちゃって。イワシにタマネギ・トマトを炒めたのをパン粉とバターをのせてお、オーブンで焼いたの。食べてみて』
『じゃ、いただきます!あ、その前にカンパーイ!!』
『カンパーイ!!』
『ところで、ユミコさん、何もしないの?なんであんな女と一緒になったの?』
『そうなんだよ。俺すごく後悔してるよ。まったくとんだ貧乏神がきたもんだ。』
『でしょ?ハズレくじ引いちゃったのね、可哀想に。私と結婚してたら、あんな惨めな目に遭わなかったのにね』
『それにあいつ、飲めないから、晩酌に付き合えないからつまらんよ』
(言いたいだけ言っちゃって…)
私の陰口で盛り上がってるみたいだ
ゆくゆくは、私と別れて彼女と暮らした方が
絶対幸せになる!いや、幸せにしてくれる!に違いない
『で、ユミコさん、得意料理ってあるの?』
『それがないんだよ。料理だけじゃなく家事もまともにできないんだ』
『それって、引きこもり…?なんていうのかな…干物女?』
『そう、それだ!』
『でもさぁ、私と結婚できなかったのは、なんで?お母さんが嫌だったから?』
『まぁね。お母さん、近寄りがたいオーラ出しまくってたからね~”何しに来たの、早く帰って!”だもの。あいつがいなけりゃな~』
『お姉ちゃん3人ともお嫁に行っちゃったから、残る私がお母さんの面倒見なきゃならないの。だからお母さんとの同居が条件だったから…』
『あ~あ、お母さんまだ元気だからな』
『それで、ユミコさんとの見合い話があったんだ』
『最初はさ、スゲー好みだったんよ。あいつの両親も”この子をお願いしますリョウさんなら幸せにしてくれると思います”で、親の熱意に押されてね…今考えたら、バカだったよ俺』
女房=私のことで
私ことツキヤマユミコは結婚25年の主婦
家事は全然苦手
料理にいたっては魚を触るのも嫌なくらい
子供2人は社会人となり家を出ている
夫ことツキヤマリョウは普通のサラリーマンだったが、リストラに遭い無職
就活は年齢的に厳しいためおこなってない
私は無職のリョウに代わり、近所の惣菜店でパート勤めをしている
(皮肉にも料理は苦手なのにね)
彼は私と結婚するまではタカヨと付き合ってた
今も週一の割合で家に来ては手料理をふるまったり、お酒の付き合いをしている
二人はお酒があるとご機嫌である
一方、私は全くダメ
だから、リョウもすごく不満なんだな
彼女と飲むのがストレス解消になっている
『だったら、ちっとも楽しくないでしょ?』
『新婚旅行行ったんだけど、終始不機嫌だったな、あいつ。金のムダとしか思えんかったよ。それに親戚の集まりの時に自分だけどこか逃げちゃってさ、非常識だよ』
『ようするに、コミュニケーション取るの、下手なんだ。こういうの、”さげまん”っていうのね?』
『友達だって、”なんでこんな奥さんもらったの?”だし。正直恥ずかしかった。あ~あ、なんてダメ女房なんだ…』
『それに笑顔ないよね、彼女。ずっとこんな感じ?』
私は悲しみをこらえながら、2人の会話を聞いていた
(この悲しみは、いつか怒りとなって爆発するかも…)
傍で聞いていてもダメだから、せめて挨拶だけはしておかないと…
『こんばんは。タカヨさん』
『あら、居たんだ~ごめんね~ところで、ユミコさん、ご飯食べたの?もし食べてなかったら、これ食べてみて』
『ご飯ならもう食べたよ』
『あら~残念。ところでさ、どうして食事作ってあげないの?可哀想だわ。冷蔵庫の中見せて』
タカヨは冷蔵庫を開けたとたん、
『なによ、これ…賞味期限やカビだらけになってるのでいっぱいになってるじゃない。もったいないことしちゃって、捨てちゃいなよ』
『何するんですか!』
『片づけもしないくせに、このままほったらかしにするの?だいいち不衛生じゃない?食中毒にでもなったらどうするのよ!』
『片づけくらい自分でします。なぜ人んちの冷蔵庫を勝手に開けるんですか』
中を見ると、カビだらけや賞味期限切れの食品でいっぱいになっていた
(さすがにマズイな・・・)
『じゃ、明日も仕事だからもう帰るね~』
『ごちそうさま。今度店行くからな。おやすみ』
(やっと帰ってくれたか…)
(つづく)