『ココちゃん。
ずっと僕の隣に居て僕の歌を聴いていてね。
ココちゃんを失くしてしまったら…
考えただけで怖いしそんなの絶対に嫌だけど…
きっとココちゃんが居なくなったら僕は
ダメになっちゃうと思う…』
いつだってそう言ってくれていたTだった
大好きなTだったけど…
私は離れることを決めた。
Tと過ごす最後の場所となった真冬の動物園は人もまばらでほとんど貸切状態だった。
いつものように私の手を握り
嬉しそうにパンダを見つめるTの横顔に向かって
『別れよっか…』
って切り出した。
突然の私の言葉に
Tは驚いた様子だったけど
前を向いたまま何も言わずに黙っていた。
暫く沈黙が続いた後
彼は静かに口を開いた
『…僕のこと…嫌いになっちゃったの?』
嫌いになるはずないじゃん。
本当に本当に…大好きなのに…。
零れそうになる涙を必死に隠したまま
何も言えないでいる私にTは
『僕さ、ココちゃんが嫌な思いや怖い思いするなら…音楽辞めるから。
ココちゃんが居るから僕は上手く歌えてる。
ココちゃんと出会ってから僕の毎日がとても素敵に変わったんだ。
ねぇ。ずっと一緒にいたいよ…
ずっと一緒にいてよ……』
私はファンの女の子たちにされたことや言われたことをTに話したことなんて一度もなかった。
きっと察してくれたんだろうな…
でもね…そんなこと言って欲しくなかったよ。
『別れたい…』
もうこれが私にとっての精一杯の言葉だった。
いつの間にか動物園も閉園の時間を過ぎ
動物たちも皆室内に入って行った
私たちも係員に促され
動物園を後にする。
気がつけば日も沈み辺りはすっかり暗くなっていた。
私とTは動物園の外にある大きな公園の隅にあるベンチにただ黙って座った。
繋いだままの手…
私はそれを解くことが出来ずにいた。
別れを切り出してみたものの
本心は離れたくない気持ちがあったから。
繋いだ手を離してしまえば
もう二度と元には戻れないってこともちゃんと分かっていた。
何も喋れないままの私の右手を
握るTの左手に更に力が込められる。
俯いていた顔を上げ
Tの方を見ると
Tが静かに泣いていた。
彼の白い頬を伝う涙を見た瞬間
私の中で今まで我慢していた涙が一気に溢れ出し
もう止めることが出来なかった。
『ココちゃん…どうしてもダメなの?』
私に問いかける彼に対し
私は顔も見れないまま頷く。
『そっか…ココちゃんは一度決めたら絶対にその通りにするもんね…
何年間も毎日色んなココちゃんの顔を見てきたから僕には分かるんだ…』
Tは私の手を自分の大きな両方の手のひらでそっと包むと
『ココちゃんの小っちゃくて温かい手…
大好きだよ。
ずっと離したくなかったな…
ねぇ…ココちゃんが前に僕の歌を好きだって言ってくれたよね。覚えてるかな?
それが凄く嬉しくてね…
元々歌うことは好きだったけれど…
ココちゃんの言葉があったから
自信が持てる様になった…
僕は自分のことが嫌いだったんだけどね…
ココちゃんと一緒に居ることで自分を好きになることも出来たし
もっともっと歌が好きになれたんだよ。
ありがとう。』
私は今までTからたくさんの喜びと愛情を与えてもらったよ
大切にされて…毎日が言葉では言い表せない程幸せだったよ。
本当に『人を好きになる』
って気持ちをTが教えてくれた。
『ありがとう』は私が言わなきゃいけない言葉だよ。
泣くことしかできない私の手を握り
Tは更に言葉を続ける。
『僕はこの先もきっと…ずっとココちゃんのことが大好きだよ。
僕のことをもう一度好きになってなんて言わない。
ただ…忘れられたらちょっと悲しいかな(笑)
僕が歌っている限り…
僕の歌を聴く度に…
ココちゃんは僕を忘れないでいてくれるかな?
もし、それが叶うなら…僕は音楽を続けるよ。』
忘れるなんて…無理に決まってるよ…
Tの言葉に顔面をぐしゃぐしゃにして泣きながら頷くだけの私。
繋いだ手を離せないまま
ただ時間だけが過ぎていきました…
続く