任天堂スイッチ版エルネア王国を元に書いています。
リンゴ視点のお話です。
ティアゴ君の葬儀は亡くなった翌日に執り行われた。
冬の始まりはティアゴ君の誕生日。
彼らしく、彼を送る朝は肌を突き刺すような凍える冬至の日だった。
「なんで……あなたまで先に逝くの…」
葬儀にきていたお母さんは、苦しそうに呟いた。
お母さんはティアゴ君を可愛がっていた。
葬儀が終わり、皆が地下墓地から去っていく。私は墓標の前からしばらく動けなかった。
朝起きたら、いつもみたいにまた探索に行けるような、そんな気がして。
それだけ彼は身近にいて、何かあれば、守ってくれた。
交友関係からティアゴ君のプロフィールを見る。
導きの蝶。この蝶は会いたい人のところに連れていってくれるけれど
『ティアゴはすでに亡くなっています』
辛い現実が文字で示される。文字の羅列が静かに心に刻まれる。
………いつものように、ティアゴ君のところには連れていってはくれなかった。
あの笑顔を見ることはもう、できない…。
リリー
「リンゴ」
私を呼ぶ声にハッとして振り返る。お母さんがいつの間にか近くまできていた。
お母さんはそれから何も言わなかった。心痛な面持ちで私の身体をぎゅっと抱きしめた。
言葉がなくてもお母さんの悲しみと、私を慰めようとしてくれている気持ちが伝わってきて大粒の涙が溢れてお母さんの鎧に落ちた。
お母さんは私の背中をぽんぽん叩いて無言で地下墓地を出ていく。
私は流れていた涙をごしごしと拭った。
いつまでも、泣いてちゃいけない……
ガノスにいるティアゴ君が心配しちゃうよね。
ティアゴ君は私の笑顔が好きだと言ってくれたから
笑っていなきゃ、だよね………
笑顔を浮かべようとしたけれどまた涙が溢れてきてどうしようもなかった。
ティアゴ君。
私が笑っていられたのは、ティアゴ君が側に居てくれたからなんだよ。
気がついたら夜になっていて、前にティアゴ君ときていた禁断の森の奥にある花畑にきていた。
前にきた時はワフ虫が飛び、幻想的に彩られ美しかったのに、今日は寒々しく見えた。
この気持ちを抱いたのはいつのことだったのか、
今となってはもうよく覚えていない。
私は、周囲から浮いていて、変わった子だと思われていた。
そんな私にも普通に接してくれていたのはティアゴ君だった。
アゴ君なんて呼んでいたのに、ティアゴ君は怒らなかったな……
私が旅人に絡まれたあとは、「もう旅人と関わるな」と言って本気で心配してくれて。
そうかと思えば、雪玉をぶつけた私に仕返ししようと追いかけてきて子供っぽいところがあったり。
知れば知るほど、惹かれていった……
でも
この気持ちは抱いてはいけなかった。
許されない恋だった。
この気持ちは罪だった。
凍えてしまうような寒さの中、私はただ月を見ていた。
著作権フリー曲 瑠璃色の記憶
最後にティアゴ君とここに来た日も2人でずっと月を見ていた。
月を見ていると、彼と過ごした日々を思い出す。
彼への気持ちで苦しみながらも、彼と過ごした日々は本当に楽しくて、切なくて、私は幸せだった。
この時の私は失意のどん底にいて、大事なことを見落としていることに気づいていなかった。