任天堂Switch版エルネア王国をもとに書いています。
リリーとバルナバとの回想話です。
最後に
「もしもリリーが気持ちを伝えていたら…?」
という短編があります。
バルナバに恋人ができ、星の日に泥団子を投げつけその想いを忘れようとしたリリーは、再びダンジョンに篭る日々を過ごす。
翌年、リリーは成人する。
早速騎士隊の選抜にエントリーすると、またダンジョンにとんぼ返りした。
同世代が恋人探しに奔走するなか、リリーは異性に目もくれず、ダンジョン攻略に明け暮れた。
トーナメントは、問題なくリリーが勝ち上がった。
ダンジョンに行くまでの道でバルナバが恋人と話しているところを遭遇する。
リリー「ーーー!」
幸せそうなバルナバに胸がちくりと痛む。
リリー
(……バルナバが好きなのはあの子なんだ……私には僅かの可能性はない……
好きな人の幸せを願うこと、それが今の自分に出来ること……)
幸せそうな2人の横を通り過ぎて、リリーはダンジョンに入る。
この年の騎兵選抜トーナメントは、リリーが優勝し来年の騎士隊入りが決まった。
年が明け、支給された騎士隊の鎧を身につける。
銀色に光った新品の鎧。
嬉しいと思う反面心のどこかに空虚な気持ちを感じつつ、リリーは家を出た。
仕事はじめは明日から……その前に。
武術職しか入れないゲーナの森にリリーは向かった。
リリー「よし……」
鞘から剣を抜きダンジョンに入ろうとすると
???
「一緒に行ってもいい?」
誰かに声をかけられ同行を頼まれた。
リリー
「構いませんよ」
ここにくるのは武術職の人間……誰だろうと振り返ると見ると山岳兵の服装をした若い青年…バルナバだった。
リリー
「ーーどうしてここに」
バルナバ
「たまには、森のダンジョンに行ってみようかなと思ったらたまたまリリーちゃんが入っていくからちょうどいいかなーって。ほら、斧だと森の魔物倒すの一苦労だから」
リリー
「………私、ここ初めてなので…役に立つかわからないけどそれでいいなら」
バルナバ
「俺の方こそ足手まといにならないようにするよ。よろしく」
リリーに向かって微笑む姿は久々で、リリーはすぐに視線を逸らせた。
初ゲーナの森は、当時のリリーにはそれなりに敵が強く、多少苦戦しながらなんとか2人でクリアする。
途中で何度かバルナバがリリーを庇った。
負けず嫌いのリリーはそれが内心悔しかった。
ダンジョンから出る時、バルナバはリリーを見て
バルナバ
「騎士隊の鎧姿、似合ってるね」
と、微笑んだ。
リリー「……そうかな?」
「夢が1つ叶ったんだね。おめでとう」
リリー
「…ありがとう」
嬉しい気持ちと切ない気持ちが交差する。
バルナバ
「俺も負けてられないな」
バルナバは子供みたいに無邪気に笑った。
リリー
「………いつかエルネア杯で戦う日が本当にくるかもね」
子供の頃話していたことが現実になるかもしれない。
思い出して、リリーもバルナバも口元を綻ばせる。
バルナバ
「………その時はお互い全力で戦おう」
リリー
「……負けないからね」
ーーエルネア杯で、バルナバに勝つ……
リリーに新しい目標が出来た。
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.―
バルナバはたまには森のダンジョンに入ろうと思ったなんて言ったけど、今なら分かる……
私が初めてのダンジョンに行くから心配してきてくれたんだよね……
おめでとう、この一言も言いにきてくれた。
バルナバは本当に、どこまでも優しい人だった
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.―
そんな日々を過ごしていると、1人の青年に声をかけられる。
彼はリリーより1歳年下のジェレマイア・クレイヴン。
ダンジョン漬けの日々を過ごし、男勝りなリリーに彼は根気強く声をかけてきた。
豆腐のような弱さだと思いながら、リリーは次第に彼の優しさや人柄に心奪われていく…
その頃、リリーはバルナバが婚約したことを知る。
教えてくれたのはジェレマイアだった。
リリー
(完全に手の届かない存在のほうが諦めがつく…)
バルナバ
「一緒にカルネの遺跡にいかない?」
なぜか森でも、洞窟でもないカルネの遺跡にバルナバが誘ってきた。
ダンジョンを進みながら、
リリー
「……今度結婚するんだってね。おめでとう」
バルナバ
「………ありがとう」
そう言うと、バルナバは微笑んだ。
でもその顔は、結婚が決まったというわりに元気がないように見えた。
リリー
「結婚するのになんでそんなシケた顔してるの?」
バルナバ「ーーそうかな」
リリー「そうだよ」
間髪入れずに言うと、バルナバは困ったような顔で視線を上の方へ泳がせた。
バルナバ
「実は向こうからプロポーズしてきたんだ。なかなか決断しない俺に痺れを切らしたのかも……男として情けないかなーって」
少し考えたあと、バルナバが苦笑しながら言った。
シケた面をしている理由がそんなことではないだろうなと思いつつ、リリーはその話に答えることにする。
リリー
「ーーいいんじゃない?彼女の方から言いたかったのかも。…結局、ノロケにきたんだ……ごちそうさまです」
リリーがニヤっと笑うとバルナバは慌てた様子で首を横に振った。
バルナバ
「違うよっ!………リリーちゃんのほうはどうなの?最近、いい感じの男子がいるみたいだけど……」
リリー
「いい感じの男子…?」
バルナバに聞かれるのはかなり複雑な気持ちなった。そしてそんな人いたっけと首を捻る。
バルナバ「ジェレマイア君だっけ?」
リリー「あぁ…あの、豆腐坊や…」
*当時、まだ弱々ステータスだったジェレマイアをリリーは「豆腐」と表現していた。
バルナバ「豆腐坊やって…」
バルナバは笑った。
リリー
「なんでジェレマイアとのこと知ってるの?」
バルナバ
「何度かジェレマイア君がリリーちゃんに声かけているのを見かけて…噂になってるし」
リリー
「………」
チクリと胸が痛んだ。
リリー
「私……強い人が好きなの」
同世代に強さを求めるのは無理があるのはリリーは承知していた。無意識に誰かの特徴の一つを口にする。
バルナバ
「まだジェレマイア君は成人したばかりだし……ゆっくり強くなっていくんじゃないかな?」
リリー
「……バルナバは最初から強かった」
ムスッとしてリリーが言うと、バルナバは少し驚いた顔をして笑った。
バルナバ
「それは俺は山岳の後継ぎだから鍛錬は人よりしているからだよ」
リリー
「………私なんかと付き合いたいって本気で思ってくれる人が、いるのかなぁ?」
強い人が好きとか、それ以前にこの負けず嫌いでめんどくさい自分を好きになってくれる人がいるだろうか、本音がポロリとでる。
バルナバ
「いるに決まってるよ」
バルナバは即答した。
リリー
「はぁ……そうかなぁ」
バルナバ
「大丈夫だって!リリーちゃんいい子だから!」
リリー(なんでダンジョンで励まされてるんだろ)
最後はなんの時間なんだろうと思いながらダンジョンをクリアした。
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.
バルナバは結婚した。
相手は年上のしっかりした人だと人づてに聞いた。
のちにその奥さんの容姿がリリーと似ていたのだがこの時のリリーは知らなかった。
バルナバが結婚してもリリーはそれほど気にならなかった。
結婚して間もなく、バルナバの奥さんは妊娠したらしくバルナバは歩いているとおめでとうと、声をかけられていた。
バルナバの子供は女の子でメーベルと名付けられる。奥さんと同じ髪色で、顔はバルナバに似た可愛らしい女の子だった。
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.―
ジェレマイアはリリーがバルナバのことを好きだという気持ちに気づいていた。それでもジェレマイアはリリーにアタックし続けてくれていた。
そんな彼とリリーは付き合うことになる。
ジェレマイアと過ごす日々は穏やかで、彼は強くなろうと努力していた。そんな姿が愛おしく思えたリリーは彼とずっと一緒にいようと心に決める。
彼からのプロポーズを受け、リリーは結婚する。
第一子を授かり産まれたのは偶然にもバルナバの第二子が産まれたのと同じ年だった。
リリーの子供は女の子で、リンゴと名付けられバルナバの子供は男の子でティムと名付けられる。
この子供たちはのちに、長きに渡り仲の良い友人になる。
ジェレマイアはというと騎士隊に志願し、見事トーナメントを勝ち抜いた。
バルナバとリリーはお互い結婚してからほとんど交流はなかった。
道ですれ違えば挨拶をする程度だった。
205年
リリーは他の武術職のことに関して無関心だったから、エルネア杯でお互いの名前を見たとき、とても驚いた。
そしてこの時
リリーは昔のバルナバの気持ちを知ってしまう。
バルナバは昔、リリーのことが好きだったが、
リリーの騎士隊に入り龍騎士になるという夢を優先して、リリーのことを諦めたということ。
今さらだった。
そんなことを知っても、もう、なにもかも遅かった。
205年エルネア杯、リリーは騎士隊長としてシードにいて、バルナバは一回戦勝ち抜くとリリーと対戦する位置にいた。
バルナバは見事一回戦突破し、リリーと激突が決まった。
リリー
「今日の試合、負けないからね」
バルナバ
「こっちこそ、負ける気がしないね」
2人はバチバチと火花を散らした。
205年エルネア杯
リリー VS バルナバ戦は、リリーの勝利
リリーは龍騎士となる。
209年エルネア杯
この時もリリーとバルナバは激突する。
お互い組織長としての対戦カードとしては面白い組み合せだった。
ローゼル騎士隊 騎士隊長リリー・フォード
VS
ドルム山岳兵団 兵団長バルナバ・マルチネス
バルナバ勝利
バルナバは斧にとっては不利である相手、使用武器が剣のジェレマイアにも勝利する。フォード夫妻を破りバグウェルへの挑戦権を獲得し、
見事勝利。
(スクショの青薔薇は、バルナバ自前のもの)
この年のエルネア杯はバルナバが優勝し龍騎士となる。
バルナバは209年が最後のエルネア杯となり、山岳隊長を引退し、顧問となった。
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――
晩年の二人は共にパートナーを失っていた。
よく酒場で顔を合わせていた二人は、気兼ねなく相談したりとよき友人関係を築いていた。
普段ほとんど愚痴らないバルナバが酒を飲んで愚痴る内容のほとんどがイマノルだった。
人妻でも平気で口説こうとするし、変なタオルを作って配るし、最近では変な虫が湧く箱で悪戯する……バルナバの苦労は絶えなった。
リリー
「今日は潰れるまで勝負する約束でしょ?」
バルナバ
「ーーえ……やめとこうよ」
約束といってもリリーが一方的に言い放ち、断わる間もなく去っていったため約束したことになっているだけだった。
リリー
「毎回毎回自分が勝つから今回も勝てると思ってるんでしょ?」
バルナバ
「……そうじゃないけど……ほら、危ないから」
リリーは立ち上がると突然鎧を脱ぎ始めた。バルナバは呆気にとられその光景を見つめる。
バルナバ「ーーどうしたの?」
リリー
「イマノルが、バルナバに勝つには鎧の締め付けがあったら絶対に勝てないよっておしえてくれたの」
家の中でのみの騎士隊の部屋着というものになりリリーは椅子に腰をかけた。
バルナバ
(真面目なリリーちゃんに変なこと吹き込みやがって)
リリー
「自信ないの?」
見慣れない部屋着で対面した形で座っているリリーをバルナバはなんともいえない表情を浮かべて見ているのでそれを自信がないから?と捉えたらしい。
バルナバ
「……まさか。」
そう言って、バルナバは帽子をとって、空いてる席に置いた。
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.―
「……………」
酒場にやってきた一人の魔銃師は、奥のテーブルで寝ている二人を見て笑った。
ティアゴ
「まーた二人で酔い潰れてるんですね」
テーブルの上に身を預けて寝ている二人は、穏やかな表情で寝息を立てていた。
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.
あったかもしれない時間
夢幻ーーユメマボロシーー
もしも、リリーが情念の炎を使ってバルナバに思いを告げていたら、2人の結末は違ったのだろうか。
*情念の炎……ゲーム内アイテム。
恋人がいる異性に使うことができる。ある程度好感度が高くないと成功しない。成功すると情念の炎は消え、失敗すると使用されず残る。
恥も外聞もなく、リリーはバルナバを幸運の塔に誘った。騎士隊に入隊した直後のことだった。
リリー
「バルナバに付き合ってる人がいるのは知ってるけど……私と付き合ってほしい…!」
情念の炎を持つ手が震えていた。
バルナバには付き合ってる人がいて、仲がいいことも知っている。
自分を選んでくれる可能性なんてほとんどないのに、リリーは思いを告げた。
バルナバ
「ーーえっ……」
バルナバは目を見開き驚いていた。
「ーーーせっかく、騎士隊に入ったのに…?」
リリー
「私の夢は……バルナバが龍騎士になって叶えてくれるでしょう…?」
バルナバ「ーーーーー」
バルナバは黙って俯いてしまった。
ーーフラれる……
訪れた沈黙がリリーにのしかかる。
心臓がばくばくとうるさかった。
ーー振るなら、はやく振って…
リリーは口を噛みしめ、手の中にある情念の炎をギュッと握りしめる。
ーー???
手の中にあった感触がなくなっていた。
リリーの震える手をそっと大きなバルナバの手が包み込んだ。
バルナバ
「ーー俺と一緒になったら後悔するかもしれないよ?」
顔を上げて、バルナバはリリーを真っ直ぐ見つめてきた。
リリー
「後悔なんて、しない…!私はバルナバが好きなの…」
言い終わるのと同時にバルナバの大きな身体に抱き寄せられる。
リリー「ーー!?」
彼の温もり、たくましく胸板、自分を抱きしめる腕、全てにリリーの思考は彼に奪われる。
バルナバ
「………すっごく嬉しい…」
力強くリリーを抱きしめるバルナバが耳元で囁いた。
「俺も………リリーちゃんのことが好きだよ」
バルナバの腕の中でリリーは目を見開いた。
目からポロポロと涙が溢れて、頬を伝い、地面に落ちた。
リリーが情念の炎を使う選択をしていたら
この瞬間が本当にあったかもしれない…
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――
もうあの頃に戻れはしない
お互い想いを断ち切って、積もる想いに蓋をして、互いの幸せを願う。
切ない日々も今は愛しく懐かしい
゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.
あとがき
夢幻ーーゆめまぼし。
どんなに願っても、時計の針は戻りません。
217年は山岳にとって、死の風が吹くように元隊長の山岳顧問が4人も亡くなりました。
218年はとうとうバルナバがガノスに呼ばれ、お話から退場となります。
このお話を書いてて思うのは、やっぱりバルナバが好きだなぁとしみじみ思いました。
バルナバと結ばれなかったこの本編はけしてバッドエンドじゃない。
エルネア杯で対戦でき、共に戦える、強い絆で結ばれたそんな関係もありだったのではないかとも思うのです。
本編としてのバルナバのお話はここでお終い。
バルナバのいるモニカ国に降りて本当に良かった。
ありがとう、バルナバ