☆
激しい戦闘を幾つも経て、
突入部隊は、ダンジョンの先に光をみつける
バルナバを先頭に、その光に足を踏み入れる
目の前に、荒野が広がっていた。
ここは?
荒野の真ん中にぽつんと何かある。
禍々しい光を放つ、なにかが。
「あれね」
Xは銃を禍々しい光に向けた。
「あの光を放つものが、この歪みを作る装置だわ。あれを壊せば、この歪みは消える」
「あの装置を壊した瞬間、歪みは消えてしまうの?」バーニスちゃんが不安そうに言った。
「壊してみないとなんともいえないけど
これだけの空間があっという間に消えることはないわ。それに..」
Xは手に筒状のものを持っていた。
魔法の気配を感じる。
「これは私の故郷の国から持ってきたもの。この魔法を使えば、少しの間は空間を維持できる。脱出する時はこれを使う」
Xは元々旅人だった。
「今はこれを信じるしかない..リリーさん」
アドレーがリリーに承諾を求める。リリーは頷いた。
「破壊しだい、脱出する。脱出の指示は、Xに。Xを先頭で、私は最後に敵の追撃を防ぎながら脱出します」
禍々しい光の周りには、魔人が潜んでいた。
荒野を見回すと、一行をぐるりと取り囲むように魔獣が目を光らせゆっくりと近づいてきている。
その数は100か200か。
それ以上なのか。
数が多すぎて、数えることもできない。
歪みを放置すればこの魔獣が王国を襲うだろう。
一行はそれぞれ大切な人たちの顔を思い浮かべていた。
リリーは、リンゴとモモの笑顔とセイがミルクを必死に飲む姿を思い浮かべた。
あの笑顔を失うくらいなら、
ここで死ぬのは怖くない。
「狙いは光の装置!!
勇敢な突入部隊よ!突撃せよ!」
リリーの掛け声に、
「おおー!!」
突撃メンバーは雄叫びをあげながら、走り出した。
リリーを先頭に、魔獣と魔人の群れに突撃した。
魔銃師とアドルファスが前方の敵にありったけの魔銃弾をぶちこみ、騎士隊と山岳兵団が力づくでなぎ倒す。
魔銃師の一人が魔人に殴られ、地面に突っ伏したところを攻撃された。
Xとアドレーがすかさず救出にはいる。
リリーは突撃を続けた。
息つく暇もなく、剣を振るった。
バルナバとバーニーが目配せして同時に必殺技を繰り出した。
魔獣たちが倒れ、周りの魔獣は一瞬怯んだ。
長い付き合いの隊長コンビ、息ぴったりのコンビネーションだ。
リリーはその隙に、駆け出した。
魔獣たちの間をすり抜けて、
走った。
リリーを狙う敵を、メルやアドルファスが懸命に斬り伏せる。
攻撃をかいくぐり、無我夢中で走った。
たった数十秒が、長くて永遠に感じながらリリーはようやく
禍々しい光を放つ装置に辿りついた。
渾身の力をふるって、その装置に剣を振り落とすと、耳障りな高音が辺り一面に鳴り響き、
装置は光を失った。
リリーはガクっとその場に膝をついた。
(なに、急に力が入らなくなった..)
「やった..」
メンバーたちが声をあげる。
「装置を壊した!」
「歪みが!」
王国に繋がる歪みが、ユラユラと揺れだした。
「みんな!すぐに脱出します!歪みに入ったら後ろは振り返らず、全力で走って!!」
Xが叫んだ。
「バルナバ!山岳兵団を連れて歪みへ!
王国についたら、これを歪みの入り口に投げつけて中身をだして!」
バルナバはXが筒状のものを受け取った。
「え?え?」
バルナバは筒状のものとXの顔を交互にみた。
「はやく!時間がない!山岳兵団を先頭に!早く!」
「....撤退する!!みんなついてきて!」
Xの山岳兵団を逃がそうとする意図に気づいたバルナバが走り出す。
山岳兵団たちがそれに続く。
「魔銃師、騎士隊も撤退!!早く!」
「はい!」
みんな走りだした。
アドルファスとX、アドレーがリリーの元にきた。
アドルファス「隊長!」
「大丈夫?!」
Xはリリーを抱えながら立たせた。
「ごめんなさい、大丈夫。行きましょう」
リリーはしっかりと立った。
「..行こう!」
X、アドルファス、アドレー、リリーも走りだし、歪みの中にはいる。
歪みのなかはグラグラして不安定になっていた。
Xは筒状のものを地面に向けてなげる。
パリンと音が鳴り、中からシュワシュワーと煙が出てくる。
「これでしばらくは大丈夫よ!行きましょう!」
「うん!」
さっきまで苦労してきた道を全速力で駆け抜けていく。
時間をかけてきた道なだけに、その距離はかなりあった。
全速力といっても、全速力を保てる距離でないことに途中で気づく。
しかし、のんびり歩いて帰る時間などない。
この歪みと共に消滅すれば、もうみんなに会うことはできない。
走ってる途中、リリーは激痛に顔を歪めた。
この強行軍で、縫った傷口が開いたらしい。それでも、よくここまでもってくれたとリリーは感謝した。
役目は十分果たせた。
「!!」
ふと後ろに気配を感じた。
古代兵器から放たれる光線がリリーの顔スレスレに放たれた。
もう追いつかれた。
Xたちがそれに気づき立ち止まる。
「みんなは先にいって!私が片付ける!」
「そうはいかない!」
アドレーが叫ぶ。
「X!!アドレーを連れていきなさい!」
「隊長!俺は共に戦います!!」
アドルファスは銃をかまえ、攻撃を開始した。
「..わ、分かった!空間の維持は任せなさい!」
Xがまた筒状のものを地面に投げてわる。
中なら煙が出てきた。
渋るアドレーをXは無理矢理連れていった。
「あーあ、アドルファス。あなた貧乏クジだよ」
リリーは笑った。
アドルファスはにやっと笑った。
「俺は死んでも家族はいないから問題ないです!」
アドルファスは熟年の年上女性と結婚し、結婚してすぐに奥様はガノスに召されたから子供もいない。
アドルファスの年だと、周りはみな亡くなっているようだった。
「..バカ」
リリーは地面を蹴って、敵を切り刻んだ。
☆
光がみえた。
バルナバたち先頭部隊は、ようやく、スタート地点に到着した。
歪みからバルナバが出ると、わぁっと歓声が上がった。
バーニス、バーニー、アリス、シモーヌも続けて出る。
皆汗だくで肩で大きく息をしていた。
「バルナバさん!」
ジェレマイアが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?!」
「な、なんとか..」
後方の人たちが大丈夫かバルナバは心配でならなかった。
リリーは装置を壊したときに膝をついていた。
あの強いリリーが膝をつく姿なんてみたことがなかった。
魔銃師、騎士隊も歪みから脱出した。
また歓声があがる。
気がつくと、エルネア城には国民が集まっていた。
遠くでエティが涙ぐんでいる。
「あとはXさんとアドレー魔銃導師、アドルファス、リリー隊長だけです」
騎士隊のエリザが言った。
「あ!」
バルナバは慌てて、Xから渡されたものを歪みの入り口に投げつけた。
煙が出てあたりにたちこめる。
歪みの中から魔獣の唸り声が聞こえてきた。
「隊長たち魔獣に足止めをくらってるんじゃ..」
「お、俺助けに行きます!」
バーニーが駆け出そうとするのをバルナバが制止した。
「バーニー!だめだ!ここで待機だ!」
「なぜですか!!?リリーは俺の義姉です」
「山岳兵団がなぜ一番最初に逃がされたのか、なぜあの四人が殿なのかわかるだろう...若いお前たちを逃すためだ」
バルナバは優しく言った。
「ここは堪えてくれ。きっと帰ってくるから」
「....はい」
バーニーは拳を握りしめた。
それから少しして
「到着ー」Xの緊張感のない声がした。
Xとアドレーが歪みから出てきた。
「導師!!」
「Xさんー!」
魔銃師たちの歓声があがる。
「X!アドレー!リリーとアドルファスは!?」
バルナバが聞いた。
Xの顔が曇った。
「敵に追いつかれて二人は殿を引き受けて...」
「二人とも早く..」
アドレーは自分が先に脱出した罪悪感に苛まれていた。
二人はなかなか戻ってこない。
歪みがグラグラと揺れだした。
それをみて誰かが悲鳴をあげた。
「ママーー!!!」
リンゴの悲痛な叫び声にXは筒状のものを再び入り口に投げる。
「これが最後の一個なの..もう時間がないわ!」
「俺が..」
「お前は待機だ!」
バーニーが言い終わる前にバルナバが再び制し
た。
「リンゴがママを助けに行く!」
リンゴが剣を片手に走りだした。
ジェレマイアが慌ててリンゴを止める。
「だめだよ!」
「だって!ママ、きっと怪我したところ痛くて泣いてるよ!リンゴが助けに行くのー!」
ジェレマイアはぎゅっとリンゴを抱きしめた。
その様子をみて、何人かがハンカチで涙を拭った。
Xはその様子をみて意をけっしたようにアドレーを見た。
「アドレー..私行くから。なにかあったら魔銃師会を頼むわね」
夫であるアドレーにXは小声で言った。
「俺もいきたい..」
「導師は残ってください。それに、私カンストしてるから」
私のほうが強いのよ、とXは笑った。
「こんなときにそんな事言うの」
アドレーは苦笑した。
「俺も行く。みんなあとを頼む!」
バルナバが山岳兵団に向かって片手をあげた。
バーニー、バーニス、アリス、シモーヌそして山岳兵団のファミリーたちが頷いた。
「お父さん!!帰ってきてね!」
バルナバの娘メーベルとティムが叫ぶ。
「帰ってくるよ!みんなでね!」
バルナバとXは、再び歪みの中に姿を消した。