『墓-③』






それから数日が過ぎて、その日は非番だった市川と桜、同じく休日であった咲季の三人が買い物をしていた。そこは食品や衣料品、日常雑貨や家具まで、何でも揃っているショッピングモールであった。目的は何者かに部屋を荒らされた咲季の原状回復の為であったが、趣はどこか違っていた。

「これもいいなあ」と一番、沢山の商品に目を輝かせていたのは桜であった。

「桜」と市川が桜を嗜めようとした。

「分かってるって。でも、せっかくの機会だもん。二人で休みなんて、そうそう取れるもんじゃないし、ましてや、買い物なんて、めったに来れないんだよ・・・これからは式の打ち合わせとか、他の結婚の準備で更に忙しくなるし」と桜が咲季には聞こえないように、市川に向かって小声で言った。

「でも・・・」と市川はチラッと咲季の方を見た。

「いいんです。気にしないで。私もすごく楽しいし。ほら、あれなんて、良いんじゃない?」と咲季が桜に向かい、違う方を指差す。

「そこはさっき見たじゃん」と市川が呆れたように言った。

「うるさいなあ」

「だって・・・」

「どっかで適当に一服しててよ」

「・・・そうさせて貰うよ」と市川がふて腐れ気味にその場を離れようとすると、

「あっ、これ、お願い」と桜に両手に余る荷物を渡された市川であった。

「あっ、咲季さんのも」と桜が自分同様に、持っていた荷物を市川に渡すように咲季に促す。

「でも、これは・・・」

「いいの、いいの」

「そんなに持てねえし」

「男でしょ・・・はい、持てた」と桜が市川に無理やり咲季の荷物まで持たせ、

「はい、いってらっしゃい」とにこやかに手を振る。

「・・・」とぶすっとした表情の市川が渋々、沢山の荷物を抱え、その場を後にしたのであった。そして、咲季と桜の買い物は午後まで続いたのであった。






その頃、阪本は立川東署を訪れていた。一人の署員が阪本の応対に当たった。

「そちらから照会のあった2006年2月頃に管内で起こった男性の自殺に関してなんですが・・・調査の結果、該当と思われる事案が全部で三件ありました」

「身元は?」

「三件が三件とも、身元の裏付けはしっかり取れています」

「・・・」

「一応、これが資料です」と署員が阪本に資料を渡す。阪本が資料に目を通していく。

「三件とも全て事件性はなかったようですし、特に不審な点はないかと思われますが・・・」

「・・・これって・・・」

「どうかしました?」

「これって・・・」と阪本の資料の中に共通したある一点の記載事項に関して、目が釘付けになったのであった。






咲季と市川と桜は三人で遅めの昼食をとっていた。イタリアンレストランだった。

「塩、かけます?」と市川が桜に対しての当てつけの様に、咲季に向かってだけ聞いた。

「・・・じゃあ、ちょっと」と咲季が桜の方をチラッと見て、遠慮がちにそう答えた。

「これ位ですか 」とこれもわざわざというか桜にあて付けるかのように、少量、少量、これ以上ない加減をして咲季の皿の上で塩を振った。

「その位で・・・ありがとう」

「私も」と桜が自分の皿を差し出したところで、市川がわざとバタンと音を立てて、塩の入った瓶を元あった定位置に置く。

「・・・」と市川を見る桜。

「・・・」と知らん振りする市川。

「・・・」と咲季はそんな二人を見て、思わず笑みを浮かべ、

「あのカーテン、いい色だった」

「・・・そうですね」とぎこちなく桜が頷く。

「どんな色です?」と市川が咲季に聞く。

「何色だと思います?」

「どうせピンクとか・・・」

「グリーン」

「・・・」と市川がチラッと桜を見る。

「彼が好きな色だからって」

「・・・」と桜の頬に赤みがさす。

「即決だった」

「・・・」

「これ、塩かけると美味しい」と咲季が美味しそうに料理を食べる。

「・・・」と咲季の言葉を聞いた市川が塩の入った瓶を手に取ると、適量を桜の皿にふりかけた。

「・・・ありがと」

「・・・」と市川が照れたように料理を食べていくのであった。それを見た咲季はまた優しい笑みを浮かべたのであった。






阪本は立川東署から捜査本部のある南井の頭警察署ではなく、警視庁・捜査一課へと向かっていた。目的はある人物に会う為だった。阪本の目的の人はいつも通り、捜査一課の自分のデスクにいた。その人物は野上哲哉であった。

「野上さん、ちょっといいですか?」と阪本が野上を呼び出した。二人は喫煙所へと向かった。

「どうかしたか?」

「野上さんって・・・」

「・・・」

「四年前」

「・・・」

「立川東署に在籍していたんですね?」

阪本は先程までいた立川東署で署員から見せられた2006年2月に立川東署管内で起こった男性の自殺に関する資料の事を思い出していた。その全てを担当していたのが、当時、立川東署の刑事課に所属していた野上哲哉であった。

「・・・ああ・・・それが?」

野上が顔色一つ変えずにそう答えた。

「野上さんは当時、立川東署で自殺者の検死報告や調書を作成する任に当たっていた」

「・・・」

「そうですよね?」

「・・・それが?」

「同じ頃、同じ地域で」

「・・・」

「ある一人の人物が自殺をした可能性がある」

「・・・」

「なのに、どこをどう調べても、その自殺に関する記載や事実が一切見つからない」

「・・・」

「不思議だと思いませんか?」

「・・・俺が揉み消したとでも言うのか?」

「・・・」

「自殺した人物の、死んだ人物の履歴を抹消したと?」

「・・・」

「そんな事をして何の得になる?」

「・・・一つだけ報告があります」

「・・・」

「双葉鏡二の・・・」

「・・・」

「双葉鏡二の墓を掘り起こす事になるかも知れません」

「・・・」

「最終的には双葉鏡二の墓石の管理者である井原咲季の同意を得てからになりますが、既に捜査本部の了承は取ってあります」

「・・・」

「それで事実が全て分かるはずです」

「・・・」

「双葉鏡二が生きてるのか・・・」

「・・・」

「それとも死んでるのか・・・」

「・・・そう。思い切った事やるね・・・いいんじゃない」

「・・・」

「用事って、それだけか?」

「・・・」

「ほんじゃ、失礼」と野上は喫煙所を後にしたのであった。野上は結局、喫煙所にいる間、一本もタバコを吸わなかったのであった。






つづく