「ユヅルお兄ちゃん」
「・・・茉実ちゃん」
仙台に帰ってきたらまた茉実には会うような気がしていた。
彼女もきっと俺が口に出した言葉の事を気にしているに違いない。
・・・そのことを確かめに来ると思っていた。
「優勝おめでとう!」
「うん。ありがとう。茉実ちゃんの応援のおかげで優勝できたよ」
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
「マミ、勝ったよ、、、って」
「ああ」
「お兄ちゃんの好きな女の人の名前?」
「え?」
「茉実ちゃんのことは好きだよ」
「そうじゃなくて」
「ごめんごめん。あれ、僕の夢の中の話なんだ」
・・・やっぱり。
「もしかしてユヅルお兄ちゃんが次の試合で優勝したら『茉実ちゃ~ん』って手を振ってくれる、って約束してた事を守ってくれたの?」
「キスクラで急に思い出したんだ。あ~茉実ちゃんとの約束果たさなきゃ、、、ってさ」
ユヅルと茉実は目を合わせクスクス笑いあった。
「すごい。同じ夢って見るもんなんだね」
「僕もびっくりしてるよ」
茉実、、、それだけじゃないんだよ。
茉実の好きな男の子のことも聞いたよ。
「タケル君」
「え・・・?」
次に来る言葉は、「タケル君と一緒に帰りたいんだけど、何て話かけたらいい?」って?
「茉実と同じスケートクラブのタケル君。お兄ちゃんのファンなんだって」
俺?茉実を好きなんじゃなかったの・・・?
「お兄ちゃんみたいにスケートもっと上手くなってオリンピックで金メダルとるんだって、いっつも言ってる」
「そっか。」
「でもね、茉実はね、タケル君はたぶん無理だと思うんだ」
「どうして?練習たくさん頑張ればいけるかもしれないよ」
「だってさ」
「うん」
「だって下手くそなんだもん。茉実の方がまだ上手よ。」
「フフッそうなんだ」
「練習嫌いみたいでしょっちゅうさぼってるの。ダメだよね」
「タケル君がものすごい才能持ってたら練習嫌いでも金メダルとれちゃうかもしれないね」
タイムトラベラー。
そんな言葉を思い出した。
俺が今エキシビションで使っている曲から思い出したのではない。
夢ではないのだろうか。
ちょっとした予知能力を与えられたような感覚さえある。
夢、だけではすまされないかもしれない。
些細なことではあるけれど。
ひたむきにスケートを愛していた頃のことを思い出させてくれたのは12歳の俺。
もうそれだけで十分じゃないか。
ありがとう。
12歳のユヅル。
24日に練習から帰ってくると、姉貴は留守だった。
「お姉ちゃんはお友達とクリスマスパーティーらしいわよ」
「マジ?あ、デートじゃないんだ」
「それよりユヅル、優勝のお祝いとメリークリスマスも兼ねて、初体験してみる?」
「お酒?やめておく。試合もうすぐだし。全日本勝ったら飲もうかな」
「そうね。それがいいわ!」
クリスマスイブの夜、ユヅルは夢を見た。
リンクだ。試合用のリンクが見える。
試合中みたいだ。
いや、 これはオリンピックだ!
・・・来た。
あれ?俺どこから見てる?
選手目線じゃないな。
観客席にいるわけでもなく。
そうか!
俯瞰で見ているんだ。
・・・誰か演技している。
俺じゃない。
もっと若い。いや幼いんだ。
俺の知っているスケーターじゃなさそうだ。
「ヤマトタケルさんの演技でした」
タケル?
タケルか。茉実の所属するクラブに一緒にいる練習嫌いのタケルのことか?
いや、きっとそうだ!タケルに間違いない。そう確信した。
練習嫌いだって?
オリンピックに出ているじゃないか。タケル。
夢、叶えたんだな。
あ・・・
ブライアンがいた。
その隣にいるのは?
選手は俺の真ん前でちょうど後ろ向きの状態だからぱっと見ただけだとわからない。
それにまだ次のオリンピックでもブライアンがコーチだと決まってるわけじゃないし。
隣に座っているブライアンはわかるのに、肝心の選手が誰かわからないんだ。
ユヅルの鼓動が激しくなってきた。
「それでは、優勝したユヅルハニュウ選手です。おめでとう!やりましたね!」
・・・今、「ユヅルハニュウ」って言った?
あっ・・・・
次に視界に入ってきたのは見慣れた天井の白い色。自分のベッドのシーツの肌触りに枕のやわらかさ。自分の頭の沈み具合を感じた。
「夢・・・か?」
タイムトラベル。。。まさか!
そんな思いはすぐに打ち消した。
あれはオリンピックだった。
未来の、オリンピックの舞台。
出れたってことなのか。
優勝っていってなかったか?
「ユヅル・・・?」
「あ、お母さん、、、おはよう」
「もう出かける用意は出来てるの?」
「昨日のうちにやっておいたよ」
母が俺の顔を覗き込む。
「いいことでもあった?」
「え?」
「すごくいい顔してる。キラキラしてるわよ。大丈夫そうね、その様子だと」
「・・・ンチャン」
「なに?なんか言った?」
ユヅルは笑顔を母親に見せた。
「なんでもないよ!長野、行ってくる。」
12歳のユヅル。
迷うことなく成長してきてくれてありがとう。
23歳のユヅル。
平昌オリンピックに出れるまでに頑張ってくれてありがとう。
2人とも、聞いて欲しい。
俺はフィギュアスケートを愛してるから。
今までも、これから先ももずうっとね。
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May your Christmas wishes come true!
最後までお付き合い下さりありがとうございました

またユヅルが創作意欲をかきたててくれればお目にかかるかも~!!
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